玉置昭治先生(元淀川キリスト教病院付属クリニック皮膚科)

会報あとっぷへのご寄稿文2

これは、目次です。気になる項目をクリックすると本文に移動できます。

Vol.51 医療問題とアトピー性皮膚炎

今回は医療問題からアトピー性皮膚炎を考えてみたい。タイトルでは大きく構えたように見えますが、そうではなく、健康をどう考え、病気をどのように考えるかそれが現在の成人アトピーの増加にどう関係するかということです。
波平恵美子氏は「医療人類学入門」(朝日選書 1994年発行)で新潟県の豪雪地域での病気治療をめぐる考え方の推移を論じています。簡単に紹介します。

病気治療をめぐる行動の変化をもたらした要素としては、

?昭和40年代に入り道路が拡幅整備されバスが開通し、50年代になると自家用車が普及し、遠くにある病院まで簡単にいけるようになった。
?昭和36年国民皆保険制度施行、その後は医療費自己負担が徐々に減少した。
?昭和40年以降「予防医療重点地区」に選ばれたため、住民の間に現代医療依存の治療行動がみられ、病気観や身体観に変化を生じはじめた、点をあげています。

治療戦略の変化としては?期[昭和40年代前半まで] 家族や近隣の人々、親戚の判断を尊重していた。そしてそれは病因を特定するためのものではなく、治療選択のためのものであった。すなわち医師の治療が病気回復にどれほど役立つかどうかで判断したといえる。
?期[昭和40年代後半から昭和50年代前半まで] この時期になると自家製薬は作られなくなった。どんな病気でも村の診療所や遠くの県立病院を受診した。どの病院を選ぶかが治療をめぐる中心課題になっていた。?期[昭和50年代後半から現在] どこの病院でどういう治療を受けるか自己決定権の主張がなされるようになる。治療効果や費やされる時間、疾病や症状がもたらす生活上の困難の度合いで決められるようになった。?期で養われた判断能力に?期で集めた医療施設などの情報などで無駄なく回復できる道を選択できるようになった。

このように指摘されています。確かに良く分析されているように思います。最近では癌を告知された方が、抗がん剤を拒否して、免疫療法を中心に治療選択される方が出てきています。情報公開が進み、治療選択の道が開かれてきているのは間違いありません。お任せ治療は減ってきています。しかし、現実には?期の段階に留まっている人が多いのも事実です。

近藤 誠氏は「成人病の真実」(文藝春秋社 2002年)のなかで「検査で異常があっても、自覚症状が無いなら病院にいかない方が良い」といっています。

皮膚がかさかさするくらいでも皮膚科に行くと、ステロイド軟膏が処方されることもあります。ああ良く効くと思って使っているとそのうち効き目が悪くなって量を増やしたり、ランクを上げたりするようになることもあります。「薬だけ下さい」と病院に行くこと=薬を貰いに行くことになっている方もみられます。

杉花粉や卵に対するアレルギー検査が陽性でも症状の出ない人はいくらでもいます。出たとしても、花粉症や、蕁麻疹ですから、アトピーの原因になっているわけではありません。しかし、いろいろ検査されて、外に出られなくなったり、食べるものがなくなったりの悲劇が付きまといます。そこまでいかなくても、育児不安はとても大きくなります。

皮膚の健康にはスキンケアといわれます。どういう石鹸で洗うか、どういうものをどれだけ塗るか皮膚科医はきちんと指導すべきといわれます。大事な点でおろそかには出来ませんが「お肌は夜造られる」「寝る子は育つ」といわれるように、夜充分な睡眠をとることが大事です。何を塗るかという事よりも大事かもしれません。

ウーロン茶やシジューム茶が良いとか、甘いものが悪いとかいわれます。α―リノレン酸がアレルギー反応を下げるといわれていますが、もっと大事なのは「腹八文目に医者要らず」ですし「バランス良く楽しく食べる」です。それだけ食べて、それだけ飲んでアトピーを治す食材などありません。

インターネットなどで情報を集めすぎて消化不良を起こしている方、片寄った情報特に自分にとっては悪い情報に振り回されて不安に陥ってしまうか方が多いようです。恐いもの見たさに集めているのではないかと思えるような人もいます。情報を吟味して役立てられないなら集めないほうがましです。

波平氏のいう?期の医療戦略になるように、医者任せ、薬頼みにならないように治療の主人公にならないとだめと思います。

Vol.52 「たましい」と「こころ」

淀川キリスト教病院の医療理念は「淀川キリスト教病院の全人医療とは、からだとこころと魂が一体である人間(全人)に、キリストの愛をもって仕える医療です」と示されています。私はクリスチャンではありませんが、この医療理念に賛同してというよりは、問題を感じないから一緒にやりましょうといって、病院に赴任しました。しかし、こころと魂の違いがはっきりいって良くわかりませんでした。辻本前院長は事有る毎にこころの中のコアになる部分というふうにおっしゃられていました。気持ちでもないし、大和魂として使われる魂でもないし、「からだ」と「こころ」で何も問題は無かろうと考えていました。

「心の深みへ」河合隼雄・柳田邦男 講談社 のなかで「たましい」について触れている部分があります。

柳田・私、このごろ「たましい」という言葉にものすごく魅力を感じているんです。われわれは戦後の科学主義とか物質的豊かさが進んでくる中で「たましい」というものを忘れていた。

戦前、精神主義がイデオロギー的に日本の国を支配して、そして精神というもののうさんくささにあまりにも警戒心が強くなったために、戦後は科学主義がのさばって、「たましい」とか心というものを怪しげな目で見るようになってしまった。
(中略)息子が脳死体験をしたという私自身の経験と密接に結びついていまして、脳が死んでもここに息子の「たましい」はまだあるという実感があったんです。

河合・「たましい」というのは危険な言葉ですから、私はだいぶ長い間言わずに黙っていたんです。たとえば、心理学会で「たましい」なんて言うと除名ですよね(笑)。しかし、だんだんそういうことをいえるようになってきました。(後略)

このように「こころ」と「たましい」を使い分けています。わたしは「アトピー性皮膚炎とこころ」を自費出版した際はもちろんごく最近まで上にも書きましたように「たましい」と「こころ」を分けて使えなかったし、使う必要も認めませんでした。
ものの見方、考え方、気持ちの持ち方、気持ちの安定感、笑い、性格などで皮膚症状を含めた体の健康状態は変わるし、変えられるものと思っていました。

「たましい」が健康に如何関わってくるかまだまだ未知の部分が多くあります。

前述の本の中で柳田は青森県の岩木山のふもとで「森のイスキア」という癒しの言えを営んでいる佐藤初女さんを次のように紹介しています。

ある女性が心に葛藤を起こし、それが越えられなくて自殺しようとして、しかし、人づてにあそこに行くと治してもらえるかもしれないと聞いて、死ぬ前に最後の試みとして初女さんを訪ねてみようと、「森のイスキア」を訪ねてみた。

初女さんは心から迎えてくれたけれど、おむすびや山菜料理で接待してくれただけで、とくに助言らしい話しはしてくれなかった。
本人は「なーんだ」と失望した気持ちで帰った。やっぱり死のう、と。だけど、帰りの列車の中でおなかがすいたので、お土産にもらったおにぎりを食べたところおいしかった。
そのとき何かがはじけたようにドッと涙があふれてきた。

「こんな自分のために、お腹がすいてはと、おにぎりをむすんで、もたせてくれた人がいる」そう気づいたんですね。
その瞬間、閉塞状態にあった自分の心が開放され、一歩前に進めるようになった。(中略)そのおにぎりは単なるモノではなくて、初女さんの心をこめたもの、心を具象化したものだったわけです。

心を伝えるのに、時として言葉には限界がある。そういうときには、おにぎりにかかわらず心をこめたなにものが相手の心に届くことがあるんですね。人間の心というものは深いですね。

ここでは「こころ」という言葉を使っていますが「たましい」でも良いのではないかと思いました。古来から「腹の底から怒る」とか「腑に落ちる」という使いかたをします。「心の底から怒る」とは余り言いません。こういう事を考えると「たましい」は「こころ」では計り知れない奥深いところのような気がします。

河合はこの後に続けて近代医学であれば、(中略)「これはこういう手術で治ります」とか「この薬で治します」といって、その先生のもっている知識とスキルで治せるわけです。(アトピーのような慢性疾患では私〔玉置〕はそういうふうには思いません。)でも、私のやっているのは違う。私のもっている知識とか技術で治るような簡単な人はめったに来られません。つまり私は治す方法をもっていない。それでも治るのは、その人が自分で治るんです。

こう書かれています。如何して治るかまだ科学的に詳しく分析できていない。上手く理屈で説明つかない。なにか「たましい」を揺さぶるような、または訴えるような事があるのでしょうか、まだまだきちんとまとまった考えを述べることは出来ませんが、「こころ」をさらに「たましい」まで深めていけたらと思っています。

Vol.53 文藝作品に現れたアトピー

島田荘司著「アトポス」に脱ステロイドのことが書かれているという事を書きました。
私が脱ステロイドを始めた頃の作品ですから出典は何かなと書いたところ温泉宅配をしているアトピーともの会の本ではないかと知らせてくれた方がいます。著者に確認したわけではありませんが、どうもそのようでした。

アトピーをテーマにした作品が出てきています。「アトピー・リゾート」 辻井南青紀 講談社 が新聞広告していました。名前に引かれ購入して読んでみた。
最初のうちはアトピーのことは出てこず、何をテーマにした本か良くわかりませんでした。何人かの主に女性の行き方を時代をバラバラに分断して並べた内容です。

そのうちアトピーの子供を南の島に作られたリゾート地で好きなことをさせて遊ばせると良くなる人がいたり、あまり変化が無いため母親があせったりという内容です。

著者が如何いう意図でこの本を書いたのは最後までわからずでした。
著者はあとがきで『この物語「アトピー・リゾート」に登場する様々なタイプの母親達は、自分で自分の現実をダイナミックに変えるということが簡単には出来ない日常を生きている。
奇妙な受動性にからめ捕られ、現実との歪んだ距離を正確に測定することが出来ず、自分の危機を伝えることばを持たない時、母親達は断片的でいびつなリアリティのなかにある。』と書います。

確かに、子供をネグレクトしたり、食べるものだけ与えたり、かわいいと思えない、代理母出産などの母親像が記載されています。そして、それら多くが自らの子供時代に原因がありそうに書いています。

アトピーの子供の母親が、全てこうであると思っていません。確かにこういう母親達もいるかもしれません。私が言っている「子供のアトピーは母親の子育て不安」はこのような情報も含めた、主に育児に対する情報に対する不安や過敏反応がアトピーに影響をしていると思っています。子供の発育は個々によって異なります。家庭の医学書どうりに行かないことのほうが多いといってよいくらいです。

最近金子みすずの詩がブームを呼んでいます。

「わたしと小鳥とすずと」 わたしが両手をひろげても お空はちっともとべないが とべる小鳥はわたしのように 地べたをはやくは走れない わたしがからだをゆすっても きれいな音はでないけど あの鳴るすずはわたしのように たくさんうたは知らないよ すずと小鳥とそれからわたし みんなちがってみんないい

「みんなちがってみんなよい」良い言葉ではないでしょうか

山本文緒『シュガーレス・ラブ』集英社文庫の中の一遍「ご清潔な不倫−アトピー性皮膚炎」は良く書けています。これも会員の方が教えてくれた一冊です。

著者の考えがアレルゲンがダニや金属、カビや化学物質、治療は大量の薬、食事管理、徹底した掃除と洗濯などに片寄っている点も見られるが、精神的なストレスも視野に入れている点良く取材されていると感じました。

「この2ヶ月で以前の自分を取り戻しつつあった。(中略)久しぶりに日常生活に張りを感じた。(中略)そして私は感じる。人間の肌の心地よさと、構われていることの幸せを。」

治そうという気力さえうせていたアトピー性皮膚炎の女性が一人の男性の出現でこうまで変わっていく様子が描かれています。
この本はフィクションですが「事実は小説より稀なり」で実際にありえると思います。

Vol.54 アトピー性皮膚炎の原因 (2003.10)

アトピー性皮膚炎の原因としては現在の時点ではアレルギー説が一番優勢です。

しかし、アレルギー性皮膚炎がダニアレルギーであれば床をフローリングにすれば良いし、卵アレルギーだったら、食べなければ良くなるわけでどれほど楽でしょう。

アトピー性皮膚炎の原因はストレスであり、人間関係が関係すると思います。

もちろんストレスは生きていく限りあるわけでストレスの無い生活などはぬるま湯につかったような生活で面白いことも何も無いと思います。 

武将の山中鹿之助は「七難八苦を我に与えたまえ」と月に祈ったといわれています。 

若い時の苦労は買うてでもしろともいわれます。

ストレスがあるからアトピーになるのではなくて、ストレスに負けてしまった時にアトピーが出てくるのではないかと考えています。 
ストレスをバネにして生活を立て直せれば悪くならない。 
生きる希望が沸いてくればアトピーは消えて無くなる。

アトピー性皮膚炎の患者さんの性格・考えかたは以前に書いたことがあります。
(あとっぷ5号・6号)

この考えかたはアトピーが酷い時に顕著です。 
そしてこの性格・考えかたがストレスを受けやすいといえます。 

一部繰り返しになりますが簡単に書きますと、母にはNOと云えないなど、自分の言いたい事が云えない、時にはわがままと勘違いしている。 

白か黒かはっきりさせないと前へ進めないなどオール・オア・ナッシングで、ほどほどという事を忘れている、そしてバランス感覚が悪い。 
一度決めたことでも堂々巡りを繰り返す。 

最近気がついたことですが、情報に振り回される。 
特に自分にとって都合の悪い情報に捕り付かれたようにはまり込んでしまう。 

などなどです。 

全ての患者さんがこうだというわけではありません。

よくなった時には片鱗もないことがあります。 
病気が性格を作っているのかも分かりません。

だからこれは悪い時の話です。

10年前に比べてアトピー性皮膚炎の症状が変わってきました。 
以前のようなステロイド漬けの患者さんは減ってきました。 

皮膚症状はそれ程酷くないのに仕事に行けない・学校に行けない人が増えてきました。 

頑張りすぎてへとへとになってアトピーが再燃したひともいます。

ステロイドなど使ったことが無いのに就職して初めてアトピー性皮膚炎が出てきたという患者さんもいます。

社会情勢も変わってきています。 
「ひきこもり」が認知されました。 
父親が中高年のリストラで息子は大学を出たが仕事が無い。 
職場に残った人はサービス残業で家族団欒は夢のまた夢。 

少年犯罪が低年齢化しました。 

忙しすぎて、一人一人がバラバラになっているようです。

こういう状況が過労死や自殺を増やしていると云えます。 

病気は弱いところに出ると考えられます。

アトピーの人は皮膚に症状が出ていると考えて良いでしょう。 
紅くなる、痒くなる、夜良く眠られないなどは体が出している危険信号です。 

ストレスが溜まっているはずです。 

そう考えるとどういう対策になるか。 

わがままにならずに云いたいことを言えるようになりましょう。 

会社や家族のためではなくて自分のために使える時間を確保しましょう。 

その時間を睡眠に当てるも良く、勉強に当てるも良く、遊びに当てるも良く、気分転換に使えると思います。

そして早く床に着く、甘い物や暴飲暴食でストレスを発散するのではなく、バランスよい食事を楽しむことが出来るようにすれば危険信号を回避出きると思います。

ステロイドが必要な時は使っても良いでしょう。 

しかし、当院を受診されるような患者さんは日本皮膚科学会が言うように
「ステロイドを使ってコントロールしていたら自然に良くなってしまう」
とはいえません。

如何すればステロイドが要らなくなるかを見据えながらステロイドを使わなくて良いようになっていかなければなりません。 

医者任せ・薬任せでは治りません。

Vol.55 最近のステロイド事情

最近アトピー性皮膚炎以外の疾患でステロイド軟膏の副作用が出ている方、ステロイド軟膏を塗っても効かなくなっている方、ステロイド軟膏を塗ってはいけない疾患に塗っている方が来院される機会が多くなりました。

ステロイド軟膏を止めるだけで良くなってくる方、単なるかゆみ止めだけで良くなってくる方、紫外線治療やビタミンD軟膏を併用して良くなってくる方、少ないですが如何しても良くならない方といろいろです。如何してこうなってしまったのでしょうか。
 
一つには日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎の治療ガイドラインに示されているように第一選択薬としてステロイド軟膏が推奨されていることと関係あるのではと思っています。

しかし、学会が第一選択薬とするしないにかかわらず、皮膚科医は診断のつけ方は教育されますが、治療学はステロイド軟膏が出来てからは「これ塗っておき」というふうにしか、指導されていません。治療学が進まず、先輩の治療を見様見真似にして個人的に確立してきたといえます。

だから、ステロイドを塗ったらどうなるかということは知っていますが、ステロイドを塗らないで何もしなければどうなるかという事を知りません。だから、何でもかんでも塗ってみるということになります。

この前名古屋から来院されたアトピー性皮膚炎の患者さんに『皮膚病の大部分は薬を使わなくてもきちんと食べて、早寝早起きしていると治る』と説明すると、『如何して、すぐに薬をくれるのでしょうね』。

病気の種類によってはステロイド軟膏を使用したほうが早い場合があるが、『これ塗っときなさい』で診察を終えるほうが、長い時間をかけて説明して薬を出さない診察では、前者のほうが収入が多くなる。というふうに話が進展しました。>

それと医者は診察椅子に座られると何とかしなければいけないという義務感につつまれるようです。
かさかさした皮膚では保湿剤を塗るか、場合によっては塗る必要も無いくらいであっても『乾燥を何とかして欲しい』と受け取ると、ステロイド軟膏が処方されます。

始めはピカピカの皮膚になりますが、何度も繰り返して塗っていますと効きが悪くなってきて、強いステロイドに変わっていきます。
また、皮膚症状は無いが痒みが強いだけでは、ムヒとかCRK水を使ったり、抗ヒスタミン剤の内服で何とかなることが多い。

こういう症状でもステロイド軟膏を使用しますと痒みが止まります。これは良い薬だとどんどん使っていると効果が落ちてくることがあります。

ステロイド軟膏以外で治療する場合効果が不安定で、上手くいかない場合もあります。とりあえずステロイドを使用しておくとなんとかなります。これもステロイドを止められない原因かと思います。

私が脱ステロイド療法を世に送り出した頃は『ステロイドを処方するのは患者さんに毒を出している』と感じていた皮膚科医もいたようです。しかし、ガイドラインなど巻き返しが起こり、ステロイドを処方する際に痛みを伴わない皮膚科医も増えてきているのではないでしょうか。

ステロイド・アトピー情報センターの住吉氏が代表を退任するという挨拶状がきました。
ご苦労様でした。アトピー性皮膚炎とステロイドの問題は私の中では一定の解決を得ています。今、問題にしなければいけない事は最初に提起したアトピーではなく「こんな病気・状態にステロイドを塗ってどうするの!」ということです。

闇に葬られないできちんとした討議の場に乗せられるようになるにはどう問題を提起したらよいか熟慮中です

Vol.56 アトピー性皮膚炎とストレス

DNCBという化学物質で被れを起こす実験では、マウスに抑制ストレス(動けなくする)などをかけると反応が大きくなる、すなわち被れが酷くなるということが解かってきました。

ストレスがかかると、コルチコトロピン分泌ホルモンが増え血液中のコルチコステロン(ステロイド)が増加します。そして肥満細胞依存性の血管透過性の亢進を起こすという論文がありました
Int Arch Allergy Immunol 2003;130:224-231)。

このようにストレスとステロイド、皮膚の反応が取り上げられる論文をぱらぱらと目にするようになりました。まだまだアトピー性皮膚炎がストレスとどのように関係して発症するか、酷くなるかと云う点に関しては解明されていません。

友人の木俣先生(宇治武田病院アレルギー科部長)は面白い事をしています。モダンタイムスなどの喜劇をビデオで見せて、その前後でハウスダストの皮内テストを行なうと後では反応が縮小する。喜劇鑑賞ではなく、テレビゲームや難しい文章をワープロ入力させるなどのストレスのかかることをさせると後の反応が大きくなる。
また血液中のサブスタンスPやVIPなどの神経伝達物質が上昇する。この事は健常人やアレルギー性鼻炎の患者では起こらないとしています。

このようにストレスと皮膚の反応がボツボツですが、いろいろ明らかになってきています。

さて、アトピー性皮膚炎とストレスの関係ではどうでしょうか。アトピー性皮膚炎はストレスが原因と私以外からも云われるようになってきました。
今年印象的な出来事は10年ぶりにアトピーが悪化した患者さんが二人来られた事でした。「アトピー性皮膚炎どこまで治るか」というアンケートに皮膚のトラブルは何も無いと答えてもらっていた方達でしたからびっくりしました。

一人は高校卒業時に8ヶ月間ほど入院され最後に断食までして良くなった方でした。食生活の大事さを身をもって経験された方です。最近悪くなったのは何故と一緒に考えました。
10年前と何が同じで何が悪かったかを、自分でも考えてみたそうです。先が見えない不安が一番似ていると答えていました。

大学受験に失敗したこと、今年は不況が進行して大手企業が親父さんと一緒に仕事している零細企業の仕事まで手を伸ばしてきて防戦一方になっている。去年も忙しかったが、遣り甲斐があった。
今年は本当に先が見えなくて、防戦一方で忙しい。「ステロイドのリバウンドが二回くるという人がいるが、まさかリバウンドとは考えてないやろうな」と問うと、そんなことは考えていないとの事でした。

もう一人は高校生の時に入院治療を行ない、他の病院の先生から本当にアトピー性皮膚炎で入院したことがあるのと問い合わせがあったくらい綺麗に治っていました。何かの資格を取って、その資格を生かせると思って転職したにもかかわらず、思ったような仕事が出来ずアトピー性皮膚炎の再燃がおこったようです。

この二人とも本当に綺麗に治っていましたし、元気に仕事をしていました。何か体にとって都合の悪い事が重なってくるとアトピー性皮膚炎として発症するようです。

その大元のところは不安であり、忙しすぎであり、睡眠不足であり、思うようにならない苛立ちであったり、暴飲暴食であったり、それらの重なりだったりするのだと思っています。

ただ先の人が云ったように「忙しかったが遣り甲斐があったら、悪くならない。」ということでしょう。同じように不安があっても希望がそれを上回れば悪くならないといえます。

上述のアンケートに答えて貰った人のなかにも「良くなって以前と同じ忙しい生活を送っているけれども皮膚は何ともありません、同世代の人より綺麗になりました。」と答えてくれている人もいます。

以前と違うことといえば週一回のフィットネスは続けていると云っています。

このように悪い条件が重ならないようにすれば悪化は防げると思います。気分転換を上手にして、休むべき時は休んで、ストレスをばねにして遣り甲斐にかえることが出来ればアトピ−性皮膚炎はコントロール可能になると思います。

Vol.57 ステロイドを使う時

阪神大震災で自宅がペッシャンコになった時は47歳(厳密には5日前)でした。中古で買った家のローンが5年間残っていました。大学2年と高校2年の息子二人に学費がかかる頃でした。家を建て直すにしても2重ローンになっては大変と、幸いにもお見舞いに頂いたお金や親戚からの援助などでローンの残りは払ってしまえました。

1年後に自宅の再建が始まりますが、先に書いたように手元に金のない状態でした。金は無いけど、元気で働ける、そこそこ収入もあるというと、「頭金だけ払って貰えば、後はローンでやりましょう。」となりました。ローンは建築メーカーの担当者が住宅金融公庫で借りてくれました。本来は80%しか借りられないらしいですが、ほとんど100%近く借金をして建てました。

ステロイドを使うということはこのようにローンを組むことのような気がします。借金をして家を手に入れて生活を安定さす、ステロイドを使って生活を安定さす。

生活を安定させて月々ローンを払っていく、まとまったお金が出来ると繰り上げ返済する。ステロイドを使いながら体力をつけていく、調子が良くなれば使う量が減ってくる。

さらに体力がついてくれば、充実感のある仕事や、趣味がいかせることが出来たりして、生活がさらに豊かになっていく。そうすればステロイドは要らなくなってくる。

このように簡単にいくとは思いませんが基本的な考えかたはこうです。ステロイドを止めるためにステロイドを使うのではありません。生活をたて直す為に使う。上手くたて直すと使用量が減ってきて、要らなくなる。
この『止める』と「いらなくなる」の違いがわかってもらえない事が多い。

ステロイドを使うということは借金をすることです。それを自分の力(金)と勘違いしてさらに借金を重ねていくと首が回らなくなります。

ステロイドが効かなくなってくる・使用量が増えてくるのと同じ事です。借りたものは返さなければなりません。
返済計画をたてねばなりません。
それにあたるものが基本的な生活習慣の改善、食事の改善、前向きな考えかたなどでしょう。

ステロイドを塗るだけで綺麗になったからといって、何も変えないで同じ事を繰り返しているとさらに悪くなってきます。そうするとステロイドが離せないことになります。

現在のアトピー性皮膚炎が日本皮膚科学会のオピニオンリーダーが言うみたいに『ステロイドを使ってコントロールしていたら自然に治る』ほど簡単ではありません。

30年前に比べて日本人の食生活は一変しています。ファーストフードが増えました。生活習慣は夜型になりました。忙しく働きすぎです。職場環境も変わっています。人が減りました。アトピーを起こしやすい環境といえます。

アトピーが出るのは、体が「危険信号」を出しているのです。危険信号ならスイッチを切った後(ステロイドを塗った後)に危険信号が出たことの意味を考え、生活態度を改めていくことなしには事は改善しません。ステロイドを塗るだけでは良くならないということです。

ステロイドを使わないでコントロールをしていくのも、お金をしっかり溜めて、全額キャッシュで払えるまで家をたてるのを待つのも、同じく一つの考えかたです。それを否定しているわけではありません。応援しています。

しかし、アトピーに良いなどという特急券はありません。

Vol.58 アトピー性皮膚炎の原因・元気が出る患者学

アトピー性皮膚炎の原因はストレスと人間関係と言えるようになりました。3週間ほど前に「少年A」が医療少年院を仮退院するという記事が載りました。
その時関わっていた精神科医が朝日新聞に「少年A」は最近アトピー性皮膚炎が出来ている。ストレスが「心の闇」に向かわないで皮膚に症状が出ているから精神科的には良くなっているとコメントを寄せていました。

医学的にはこれを「心身症」といいます。私も現在のアトピー性皮膚炎の大部分はこの「心身症」に当てはまるのではないかと思っています。

私は「アトピー性皮膚炎は体が発している危険信号」と思っています。頭でストレスと感じていなくても体が感じているということです。いやな上司とか同僚、もうひとつ乗りきれない仕事など感じることが出来れば何とかなるものです。逆に「仕事は楽しい、同僚はみんな良い人」といいながら職場復帰すると悪化する人を何人見てきたか。

危険信号が出ているならその信号をステロイドなどを使って切っておいて同じような無理を続けていると薬が効かなくなるし、爆発的に悪化してくることもあるかもしれません。

ステロイドを使って信号を切ってもかまわないがそういう信号を出さざるを得なかった原因、この場合はストレス・人間関係を気分転換、休養、食生活改善などで改善していかないとステロイドを止めることが出来なくなってしまいます。

アトピー性皮膚炎が良くなっていくために、さらに大事な点は生きがいではないでしょうか。

柳田邦男著「元気が出る患者学」(新潮新書)によると、大切な「生きがい」と「笑い」(79頁)のなかでアメリカの著名なジャーナリスト(私は知りませんでした)ノーマン・カズンズ氏の「笑い」の重要性を書いています。

彼は1960年代の半ばに膠原病を発症したそうです。今でも膠原病の治療はステロイドを上手に使うしかないが、当時ならステロイドを使い始めた頃で「かなり重症で治る確率は500分の1」といわれたそうです。以下は本文に忠実に再録してみます。

重要なことに気づいた。人はがんや難病になって、自分の人生もこれまでかと絶望しうつ状態になると、からだの活力が失われ免疫力が低下して、死期をはやめてしまうと、よく言われ、医学的な検証をした論文も若干だがあった。

その逆、つまり生きる意欲が高揚し、気分を陽気にすれば、免疫力が活性化し、体の活力も向上するのではないかと、カズンズ氏は考えたのだが、そういう医学研究は行なわれたことがなかった.しかし、うつ状態が生命力を低下させるのなら、逆に心を前向きにして陽気になれるように努めれば生命力は向上するはずだ。(中略)

そこで、カズンズ氏は病気を克服するための方法として、第一に強い「生きる意思」を持ち続けること、第二にできるだけ「笑う」こと、そして第三にビタミンCを積極的に摂取すること、の三つを実践することにした。

最も効果を発揮したのは「笑う」ことだった。テレビ局の友人に頼んで、お笑い番組や「どっきりカメラ」などのフィルムを持ってきてもらい、1時間大笑いをすると、2時間は安眠できるようになり、そのぶん体が楽になる。

どんどんお笑い番組を見たりユーモア小咄集を読んだりするうちに、ぐっすり眠れる時間が長くなり体調もよくなっていった。「生きる意思を」高揚させるために仕事に取り組むと、達成感があって気持ちがすっきりする。

このようにして、とうとうカズンズ氏は膠原病を治してしまったのだ。カズンズ氏が医学専門誌に投稿した手記に専門家も驚き、その後笑い療法に取り組む医師が現れたり、笑い療法学会が生まれたりした。

それと大事なことは気づきでしょう。諏訪中央病院前院長の鎌田實が「病院なんか嫌いだ」(集英社新書)のなかで「良医にめぐり合う10箇条」の一つとして書いています。

?健康に対する意識を変え、生活のリズムを変えること。

その患者さんはいろいろなストレスをいっぱい抱えている時期に、糖尿病を発病した。(中略)しぶしぶ食事療法と運動療法を始めることになった。(中略)生活療法をきっかけに、患者さんはこれまでの生き方を見直していった。

欲求不満の時は、おいしいものをたくさん食べてイライラを取った。アルコールを飲まないと眠れなくなっていた。

でも、少量のものをゆっくり食べ、周りの景色を見ながらニンジンやトマトを一つ一つきちんと味わい、どんな人がどんな所でこのニンジンを作っているのかを想像していると、いろいろな人や自然につながっている自分に気がついた。

運動で気持ちのいい汗を流しているうちに、自分の身体に意識がいくようになった。ストレスに負けている時と違って、不思議に身体が気持ち良くなった。

 (中略)

病気になった患者さんは、全部、自分で気がついていく。だから、僕は命じることはしない。2、3箇月でスーッと気づく人もいれば、5年も10年も病気を呪ってグチをいいながら、ある時パーッと窓が開かれる人もいる。

 (中略)

つらい患者さんに寄り添ってくれる医療があれば、患者さんは変わっていく。どんな人にも生きる力はある。ただ、隠れているだけだ。何か、ないものを魔術師のように引き出すのではなく、内側にあるもともと存在している「生きる力」に患者さん自身が気づき、みずからを癒していく手助けをして上げられるのが、いい医者なのだと思う。

Vol.59 書くこと、書かれること

まんが原作者、評論家の大塚英志氏が6月16日付の赤旗で佐世保・小6事件について「書くこと」「書かれる」ことの危うさを書いている。
本を書いたり、評論を書いたりすることはそれに対する論評が誰かから「書かれる」立場にあり、「書かれる」経験を経ることで「書くこと」の危うさや匙加減を学習してもいく。
しかし、論壇や文壇においても、書かれたことが気に入らないと飲み屋で殴りかかったという話しは絶えないそうである。「書かれたもの」の全てを自らの糧に出きるほどになかなか人は謙虚になれない(抄録)。

インターネットの掲示板は不特定多数が見ることが出きる、メディアであり「公器」であることを自覚する必要がある。小学生がネットを私的な「内証話」の手段ではなく、「公器」として使いこなせなかった、という問題を決して加害者の少女の中の不可解な「闇」として片付けてはいけない。と概略このように書いている。

これはインターネット上などで淀キリのT先生について書かれたものを見た時に感じる「嫌な感じ」を見事に言い表している。いちいち反応するのは面倒くさいと思い2チャンネルなどは見ないようにしていたが、私だけの過剰反応では無い様なので安心しました。

話し変わって、書くこと、書かれることと関連したことでは情報をきちんと整理する必要があると思います。
この1、2週間いろいろなことがありました。一番目は「アトピー治療革命」の著者で友人でもある皮膚科医が適切にステロイドを使うガイドラインに添った治療を行なわなかったとして約640万円を支払うよう命じた判決が6月16日にあったことです。当事者からの連絡がない為どう手助けをすれば良いか決めかねているところですが、どうも「脱ステロイド」潰しのような気がしています。

「あとっぷ」の掲示板にも書きこんでいる「驚異の桃源クリーム」が摘発されました。今の医学では効果のあるのはステロイドとプロトピックだけです。「あとっぷ」の掲示板にもいろいろ書きこまれています。また機関紙のなかにも「大丈夫かな」と思うような治療法の紹介が載っている時があります。良い薬、良い治療法を求めるとこんないんちきなものにだまされます。気をつけましょう。

3番目は歯科金属アレルギーを指摘されたため、セラミックに変えたところ、今度は接着剤のアレルギーでセラミックも抜いてしまった。どうしましょうと思い余って来院された方がいます。

金属アレルギーは桃源クリームと違って一概にいんちきとはいえません。一例だけですが、金属アレルギーでパンダのようになっていた例を経験しています。
そして元々皮膚科の教科書には偽アトピー性皮膚炎として記載されています。

しかし、この方のアトピー性皮膚炎の原因が金属アレルギーによるものとどのようにして証明したのでしょう。

私の考えは多くの方は知ってくれていると思いますが、アトピー性皮膚炎の原因にアレルギーが関与する率は非常に少ない、ほとんどないという考えです。

今日のことですが、6年間水治療をしているが11月頃から悪化して良くならない「もうステロイドを使うしかないか」といって患者さんが来ました。
水治療を始める前に一度淀キリに来て私から「水治療なんかで治るわけない」といわれたそうです。
それでも水治療に踏み切ったようです。

今回の来院はどうも脱ステ裁判のことが頭にあったようで水治療は適切な治療ではないと考え始めたようです。
この人のように水治療や、民間療法と「脱ステロイド」を一緒にして不適切な治療と考えられるようになるのはどうしても避けたいし、逆に日本皮膚科学会のガイドライン作成委員会の思惑がここにあるのではと考えてしまいます。

Vol.60 脱ステロイド裁判について (2004.09)

私の友人である東京の藤澤先生が被告になって行なわれた脱ステロイド療法裁判が、被告側の敗訴になったことは前回に少し触れました。

事件の内容は土佐清水病院のステロイドを混入したSOD軟膏を外用した4歳の子供が母親とともにステロイドを使いたくないと来院。脱ステロイド療法に納得してステロイドを止めたところアトピーの悪化が長く続き、耐え切れなくなったため、ある大学に入院してステロイド治療を受けて軽快。

その周囲の応援を得てというか、説得されて藤澤先生の治療をアトピービジネスとして訴えたものです。

藤澤先生はこの判決に納得されず、控訴する決意をされました。そしてその弁護団に参加を要請されました。判決文を見せてもらうと確かにひどい内容で経験不足、勉強不足の意見ばかりがとり入れられた判決でした。

この判決は「アトピー性皮膚炎の治療法それ自体の医学的当否を論じることは、裁判所の役割ではないし、本件において必要なことでもない。」と断定しておきながらある鑑定書を唯一のよりどころとして判決文を書いています。

脱ステロイド療法を皮膚科医の敵と考え攻撃しているように見えました。個々の治療云々というより、脱ステロイドそのものを問題としているように感じました。
そのため
「売られたけんか、買わせてもらいましょう。鑑定人でも、証人でもやりましょう」
と藤澤先生を激励しました。

それにしても判決文に引用されている鑑定書はひどいものです。「アトピー性皮膚炎は適切な治療により症状がコントロールされた状態が維持されると、自然寛解することがある。」
として
「幼少児例の大多数は10歳ころまでに自然寛解する」
と、言っておきながら
「アトピー治療は薬物療法を中心とした適切な治療により症状をコントロールすることに主眼が置かれる」
としています。

自然寛解とは薬が要らないコントロールもいらない状態です。一方では治ってしまうといいながら、一方ではステロイドなどでコントロールするといっています。
どちらが本心なのでしょう。

淀キリの治療ゴールは大人も子供も
「何もつけない、何も飲まない」です。

ステロイドによるリバウンド現象は長期内服では中止後にリバウンドが起こるといっていますが、長期連用後に中止して心配しなければいけないことは急性副腎機能不全です。
そして、長期に外用しても外用剤では
「リバウンドが生じることは考えられない」
と結論しています。

医師個人が
「生じるとは考えられない」
と考えるのは勝手ですが、それを鑑定書に書いて裁判所が採用してしまうところにこの裁判の不気味さがあります。

リバウンドが生じること医師からもたくさんの指摘がありますし、このことは私が言い出したことでもありません。

そもそも私が何故脱ステロイド療法を始めたかというと、従来のステロイド軟膏の治療に抵抗性で、ステロイド外用剤をいくら塗っても効果が表れ無くなった例や、赤鬼様顔貌と称されるような副作用が出てしまっている例などを多数経験するようになり、このままステロイド治療を行っていても、寛解を得ることが期待できない例がいたためです。

第2番目の点はステロイド外用剤の副作用として大多数の皮膚科医が認識していた酒さ様皮膚炎(口囲皮膚炎)の治療ではステロイド外用剤を中止することが原則であるということがよく知られていた事実があることです。

この疾患は中止すると離脱皮膚炎が起こり、症状は一時的に増悪したように見えますが、2ヶ月から半年くらいで落ち着いてくることは70年代の終わりには知られるようになっていました。

この2点に加えて、ステロイドを使わないで何とかして欲しいという患者さんが出てきたことです。
しかし、鑑定書では
「ステロイド抵抗性も通常の使用では経験されない」
と書いています。どうも経験が無いとしか考えられません。

多くの患者さんを見てきている私にとって、こんな鑑定書は許せないと思います。

Vol.61 最近思うこと

?・アトピー性皮膚炎とステロイド
 
第84回近畿皮膚科集談会(1991年)でアトピー性皮膚炎の脱ステロイド療法の臨床経験を学会発表した。
80年代の後半から従来のステロイド軟膏の治療に抵抗性で、ステロイド軟膏をいくら塗っても効果がなくなった例や、赤鬼様顔貌と称される副作用例などを多数経験するようになった。

そのままステロイド治療を続けても、よくなるとは思えなかった。ステロイドを止めると一時的に離脱症状が出るが、治まってしまうのではないかと考えていた。
その根拠はステロイド軟膏の副作用である酒さ様皮膚炎(口囲皮膚炎)の治療は、ステロイド軟膏の中止が原則であるとよく知られていたことである。  

酒さ様皮膚炎(口囲皮膚炎)はステロイドの副作用のため、止めれば治ってしまうが、アトピー性皮膚炎はステロイドの副作用だけではないために、離脱皮膚炎が治まっても、アトピー性皮膚炎が出てくるのではないかという不安があり、完全中止が出来ないでいた。

90年になってステロイドは使いたくないという患者が出てきた。「ステロイドを止めると離脱皮膚炎が起きて一時的な悪化が起きることもある。その後酒さ様皮膚炎(口囲皮膚炎)のように治ってしまう場合もあると考えられるが、アトピーの症状が出てきて治らないことも考えられる。

まだ、誰も試みていない方法のためにどういう経過をたどるか良く分からない。」と説明したが、「それでも良い、ステロイドを使わないで治療をしたい」という強い意志のために、入院してステロイドを使わないで治療を始めたのが最初の例である。

?・アトピー性皮膚炎の治療  

脱ステロイド療法では、初期の頃はステロイド軟膏を止めるだけで良くなる患者が続いたために、ステロイドが治療に悪影響を与えていると考えるようになった。
しかし、阪神・淡路大震災の前後頃から、結婚後、出産後、就職後、管理職に昇進後、リストラに遭って、ステロイドを使ったことが無くてもアトピー性皮膚炎になる患者が増えてきた。

脱ステロイド療法で培った、「早起きは3文の得」「腹8分目に医者要らず」「言いたいことがいえて、気分が安らぐ環境つくり」などを指導することにより自然治癒する例を経験する。
医者がすべきことは正しい情報をきちんと提供すること。
治る為に患者が努力して、周囲はそれを支える、必要があると気づいた。これを「医者と患者の関係の見直し」として皮膚科学会総会で報告した。  

アトピー性皮膚炎は医者が治してやると構えるより、患者が気づいてよくなっていく、そういう関係が必要であろう。

?・民間療法について  

自然治癒との関係ではっきりさせておかなければならないのは、民間療法の功罪である。
8月に淀キリに入院した患者から、入院証明の記入依頼とともに「今民間療法に頼っている、体の中を入れ替えないと治らない。好転現象を極力抑え,来年正月に完治予定です。」との手紙をいただいた。

あの好転現象といわれている浸出液は体に溜まったステロイドなど悪いものが出ていくためだろうか? 外用ステロイド剤は分解されにくく作られているが、もともと副腎から分泌されている物に、似せて合成されたものだから人体には分解酵素がある。徐々に分解される。

PCBは化学合成されたもので自然界に無いものですから分解酵素がない。そのため、一度体内に取り込まれたものは排出されない。唯一この物質は油に溶けますから毛穴から排出される。

35年程前ににきびのようになったカネミ油事件があった。女性であれば母乳に溶け込んで赤ちゃんに引き継がれる。こういうPCBと異なる。

浸出液の素は何か調べたことはないが、体に不要なものではなく、血漿蛋白だと思う。 だから余り長く続くと低蛋白になり、足が浮腫むようになる。だからこれは止めたほうが良いのは間違いない。しかし、確実に止められるのはステロイドしかないことを知っておく必要がある。

だからステロイドを使わないでこれを止める事ができるのは「それで良い、安心できる居心地の良い環境です。」居場所といっても良い。  

座禅で、入浴で、写経で、ヨガで、太極拳で、酸性水アトピーを治す、など医者がかんでいるものもあるが、ありとあらゆるものでアトピーを治すといわれている。

それぞれ、それで気持ちが楽になり、落ち着くこともある。私も気分を和らげるためにこういうことを勧めることがあるが、あくまでも一手段でしかない。これでアトピーが治るわけではない。

しかし、3ヶ月後には良くなると目標を立てられると安心するし、1割くらいの人は信じ込んでしまうと、何をしても治ってしまうこともある。鰯の頭も信心からと同じです。そういう人がまた、別の人を勧誘していきますから民間療法が廃れないわけです。悪くなれば「悪いものを出すだけ、出さないとだめ。」「これから良くなります好転現象です。」などセールストークはどこも同じです。

Vol.62 離脱皮膚炎とリバウンドとアトピーの悪化の関係

今裁判を戦っていますが、相手方は初めは『ステロイド外用中止後にリバウンドは起きない』といっていましたが『「ステロイド離脱性皮膚炎」は長期にステロイドを外用していた状態で、その中止による皮膚の症状を悪化したものを表現しているようです』や「治療中断によるアトピー性皮膚炎の悪化」とか、ステロイド外用中止後の悪化は認めるようになりました。もう少しかと思います。

ステロイド軟膏の長期連用中止後にリバウンドが起こることはよく知られるようになりましたが、山下会長が「米ぬかに入って4日目にリバウンドがきた」と書いている様に、また、良くなって何年かたっても2回目や3回目のリバウンドが起こるという医師までいるように、離脱皮膚炎、リバウンド、アトピー性皮膚炎の悪化など言葉が混乱しています。その関係を見てみたいと思います。

離脱皮膚炎とリバウンド(反兆現象)をきちんと定義されたのは日本医大におられた本田先生です「ステロイドの長期連用後に外用を中止すると、本剤使用の対象となった病像とは全く無関係に(アトピーだろうがその他の疾患だろうが同じという意味)、その禁断症状としてステロイド皮膚症に特有な皮疹の画一的増悪をみることがある。(膿庖、浮腫性紅斑、かさかさ、バリバリ、ジュクジュク、浮腫など)」これが離脱皮膚炎です。

リバウンドを本田先生は「ステロイド外用剤の中止により原疾患が急性増悪する跳ね返り(反発)現象(リバウンド)」と定義しています。原疾患が急性増悪するわけですからアトピーの悪化と同じことです。

1年たってリバウンドや、2回目、3回目のリバウンドと呼ばれているものは、アトピーの悪化と判断して良いということになります。アトピーの悪化ですからステロイドを塗っていないところにも拡大することが良くあります。
増悪因子を取り除かないと酷くなります。

私はこの増悪因子はストレス、人間関係、それから情報処理の過ちによる不安、医療不信などが大きいと思っています。子供の場合は母親の子育て不安です。本田先生はどこまでが離脱皮膚炎で、どこからがリバウンドは判然としない例があるといっています。

だから、私はアトピー性皮膚炎でリバウンドといわれている症状は離脱皮膚炎とアトピーの悪化が混ざりあったもの、多くはアトピーの悪化と現在は考えています。「リバウンド=離脱皮膚炎+原疾患の悪化」です。

前号で民間療法の事を書いた際に、ステロイド軟膏は分解されてなくなっていくと書きました。ところが山下会長は安保先生の酸化コレステロールのことを書いて突っ込みをいれてきました。

今までにわかっていることを書きます。
ロコイドというステロイド軟膏があることは御存知と思います。本剤は生体にあるハイドロコーチゾンの17位に酪酸をエステル結合させて皮膚の親和性を高めて、皮膚での抗炎症反応を強くしています。
この17エステルは代謝されにくいですが、17エステルは21位に転位しやすく、転位します。
21エステル加水分解酵素活性は人では弱いが存在することが知られています。

結果として加水分解されます。このことは良く知られたことで教科書を調べればすぐ出てきます。加水分解されると元々生体にあるハイドロコーチゾンになりますから分解されていきます。他のステロイド軟膏は構造式が少し異なりますからこのように簡単には説明できないかもわかりませんが商品が認可される時には代謝も含め放射性同位元素を使った実験で代謝されていくことは証明されているはずです。

では酸化コレステロールとは何か、前述のことをメールで直接安保先生に質問しました。そしたら先生の書かれた本を一冊贈っていただいた。

そこには、「新鮮なステロイドホルモンは側鎖のほとんどが酸素フリーで極限とも言ってよい抗炎症作用を示す。そして、生体内で次第に酸化を受けていく。酸化レベルのまだ低いステロイドホルモンは尿から排泄される。

しかし、酸化レベルが高くなると通常のコレステロールと同様、胆汁酸として肝から腸に排出される。」と記載されています。
化学で言う酸化とは酸素を受け取るか、水素を放すかを言いますから酸化コレステロールとは酸素フリーになっているステロイドが活性酸素などを受け取り、抗炎症作用を起こしながら酸化を受け酸化コレステロールになるということのようです。
(これが正しいかどうか先に述べたようにステロイドの代謝は決着がついていると思っていますから時間の関係で調べられませんでした。)
しかしよく読んでください胆汁酸として肝から腸に排出されると書いてあります。

酸化コレステロールが皮膚から吹き出てくるわけではありません。皮膚から出てきている浸出液は細胞内液や血漿(血液の血球成分を取り除いたもの)と考えられています。

皮膚科医はそう信じていますからわざわざ調べようとはしません。良い方法があります。酸化コレステロールなら水に溶けませんから水で洗い流せないはずです。
水で流してさっぱりするなら水に溶けるものです、酸化コレステロールではありません。亜鉛華軟膏が水に溶けないのと同じです。

 
 あとっぷと私の関係

 あとっぷは淀川キリスト教病院に入院した患者が、山下会長を中心にして結成した自主的な患者団体です。私や、中村先生は原稿依頼があれば原稿をおくっています。

あとっぷ会への参加も要請があって、時間の都合がつけば参加しています。淀川キリスト教病院の患者組織ではありません。したがって会長がどう言う治療をしてそれを会報に報告したり、ホームページに載せたりしても文句を言う立場にはありません。

しかし、会員の多くは淀川キリスト教病院で治療を受けたことがある方が多いわけです、また、結成の当初から原稿を送る、機関紙や、加入のしおりなどを外来のパンフレット入れにいれることを認めるなど、他の患者団体とは異なる対応をしてきました。

淀キリが主催している患者団体と誤解している人がいるかもしれません。それが困ります。あとっぷには今までも写経や、わけのわからない民間療法の類いが載ることがありました。「他山の石以って玉を攻むべし」のつもりで載せているのだと思っていました。
だから、民間療法を薦めるような記事を書いたことにびっくりしました。淀キリを受診される方はステロイドを使いたくない、止めたいと考えて来院されます。

そこで民間療法を薦める会長の記事を見た時に何と思うでしょうか。この記事を謝罪して撤回、訂正しないと原稿を送らないと連絡をとりました。

Vol.63 患者の視点−功と罪―

最近厚生労働省医政局長・岩尾総一郎氏の講演を聞く機会がありました。医療供給体制改革の基本的視点のひとつとして「患者の視点の尊重」をあげておられた。

セカンドオピニオンを含めて患者への治療方針や治療方法の選択肢の説明が適切に行なわれ、患者と医師との信頼関係の下、患者の選択を尊重した医療が供給されることなどが大事と述べておられた。私は1997年の日本皮膚科学会総会のシンポジウムで医師と患者の関係を

?医師主導型、
?教育の関係、
?共同作業の関係の3段階に分け、

アトピー性皮膚炎などの慢性疾患は?の段階に属し、治療の主体は患者であり、医師は正しい情報を提供するなどの援助者であると問題提起しました。(「アトピー性皮膚炎とこころ」にも書いています)

日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎治療のガイドラインや、金沢大学の竹原教授が「当たり前の治療こそ皮膚科医の原点」(日臨皮22:2−6,2005)として書いていた視点は、医者の視点からステロイドを上手に使えと患者教育をすることはあっても、多くは俺に任せておけという?の医師主導型でしかありません。

岩尾氏の言うように医療が患者の選択を尊重した医療が供給されることが必要ということになれば、アトピー性皮膚炎の治療はガイドラインに沿うよりもオーダーメードの治療が必要になるという事にならないでしょうか。情報をきちんと提示してステロイドを使いたくない患者にはステロイドを使わないで治療していくこれが必要ではないでしょうか。

水治療や漢方治療で何度もステロイドを止めても上手くいかない患者さんが来られて、ステロイドを止めるために入院しました。当院の治療の基本は「間食禁止、飲み物はNOカロリーの物、病院の食事を食べ、昼間は適度に運動して早寝早起きをする」です。

入院前は缶コーヒーなどを毎日10本ほど飲んでいたようです。それを止めたからかステロイド中止後の離脱皮膚炎は軽度で済んでいましたが、2週間くらいすると「淀キリには脱ステの秘薬があるのと違うんか? 早くそれを出してください」と言い出した。
「そんな物はないよ、ステロイドを止めるという事は自然治癒させることです。そのためには早寝早起きして、バランスよく食べて、前向きな考え方が出来るようになり、笑顔で暮らせるようになることです。」と説明しました。いろいろ激論を交わしましたが、納得されて入院治療を続けられると、どんどん綺麗になってきました。

淀キリにはステロイドを止めるための特別な薬や治療法があるという思い違いはよくあるように思います。治して貰いたいと考えている人、どこかに良い薬や治療法があると期待している人に多いように思います。
だから「そんな物は無い」と悟った人は「俺が治してやる」と公言していた四国の病院や民間療法にいくことがあります。こういう人はどこかに治してもらうという甘えがあるように思います。

アトピー性皮膚炎を治す薬はありません。水治療などは治療の内に入りません。漢方薬が効くなら淀キリまで来ません。症状を一時的にでも抑えることが出来るのはステロイドとプロトピックだけです。

アトピー性皮膚炎を治すのは生活習慣を見直し、いいたいことが言えるようになり、ストレスをバネにして充実感や達成感のある仕事や、趣味、ボランチィア活動などが出来るようになると自然と良くなって来る疾患です。

Vol.64 アトピー性皮膚炎:今と昔

・アトピー性皮膚炎はアレルギーか

大学を卒業して5年目(1977年)頃からアレルギー外来を任されるようになった。当時は皮内テストが中心であった。沢山の患者を検査した。陽性アレルゲンは沢山見つかるが、アトピー性皮膚炎の原因とは思えなかった。

突破口を模索していた頃、群馬大学小児科・松村龍雄教授のアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの話を聞いて、独自に食事制限を試みてみたが治療成績の向上には結びつかなかった。
1978年頃から製薬メーカーがRAST検査を提供してくれ、血液検査が出来るようになった。面白いように陽性アレルゲンが見つかる。
しかし治療効果には結びつかなかった。その後RASTがどこでも行なえるようになる。卵白RAST陽性で卵白除去を行い、症状が軽快したから卵白がアレルゲンであるという考えが小児科医を中心に起こってきた。

皮膚科領域ではダニフリールームで生活すると良くなるという報告も出て、ダニアレルギーがアトピーの原因という考えが主流になった。

しかし、アレルゲンをいくら追求し、生活環境から排除してもアトピー性皮膚炎はなくならなかった。私にも金属アレルギーの患者で装飾品を止めてよくなった例や、パンと小麦が陽性でパンを止めたらパンダのようになっていた例がよくなった経験はある。

アレルギー学会(2004年)でカラゲーナンの消化管潰瘍、腎炎、アナフィラクトイド紫斑例を報告した。

このように皮膚症状にアレルギーが関与しないというつもりは無いが、大部分のアトピー性皮膚炎患者は、アレルギーを合併しているだけである。

食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因ではなく、卵白アレルギーを合併しているため卵を食べると痒くなり、蕁麻疹が出る、ひどいとショックを起こす。

ダニや猫毛アレルギーではダニの多いところ、猫を飼っている家に行くと痒くなる。

もともとアトピー性皮膚炎は喘息やアレルギー性鼻炎との合併が多いと知られている。食物アレルギーや吸入抗原アレルギーの合併が多いと考えて何の不都合も無い。

「パンダはパンだ」といった小児科医がいる。しかしその症状が本当にパンで起こったという証拠は未だ示されていない。除去食をすればよくなるという小児科医は多い、しかしアトピー性皮膚炎は自然に良くなる疾患である、除去をしたから良くなったと言ってもそれを食べたら蕁麻疹ではなくアトピー性皮膚炎になる証拠は示されていない。私の経験例も金属やパンが原因という証拠は無い。ある物をやめたから良くなったこととそれが原因であったとの間には大きな距離があることを分からない医者が多い。

・アトピー性皮膚炎とステロイド

脱ステロイド療法を発表した経緯は既に記した。最初の例は離脱皮膚炎が軽快後、順調に回復し良くなった。
学会報告後はステロイドを使わない治療を選択する医師も増えて、ひとつの流れになった。

しかし、日本皮膚科学会はステロイドを第一選択薬とするアトピー性皮膚炎治療ガイドラインを作成し、脱ステロイド療法を認めようとしない。
しかし、その後の研究で、ステロイドがIgE産生を亢進させ、ステロイドやストレスがバリアー機能の回復遅延を起こし、ストレスが接触過敏を増強するなどが報告された。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎などの慢性疾患であっても俺が治してやると考えている医師が多い。ガイドラインの立場に立つ医師ばかりでなく、ステロイドを使わない医師の中にも多い。

だからこれがいい、あれがいいという論議になる。症状を抑えることが出来るのはステロイドとプロトピックだけ。
それ以外に効果のある薬や治療法はない。ここを納得することです。

しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんはこうしなさい、こうすると良くなると方向性を示されたほうが楽なようです。そしてそれが間違った療法であっても、それにはまってしまうと良くなることがある。
これが民間療法がなくならない理由のひとつです。上で述べた食事制限がお母さんの育児に明確な指針となったときは安心して治ってしまうこともある。
それがよりよい物を食べようと産直運動などにつながって行けばさらに良い。

除去食をアトピー性皮膚炎の治療の基本にしていた小児科医が「信じてついてきてくれる人は良くなっている」といっているそうです。育児不安がなくなれば子供のアトピーは治ってくる。当たり前です。

医者が治したなどおこがましい。患者さんが気付いて勝手に治っていく、要はいつ気が付くかです。それを「医者と患者の関係の見直し」として皮膚科学会総会で報告したことは以前に書いた。

脱ステロイド提唱して15年。現在のアトピー患者がアトピーの原因、ステロイドとの関係などをどう考えているか、淀川キリスト教病院の治療成績などの集大成を来年の学会で報告したい。

Vol.65 最近の治療風景

『何時からアトピーがあるのでしょうか』

「小さい頃からです。始めのうちは肘とか膝にアセモのような物があり、薬を塗ればすぐに良くなるくらいでした。季節の変わり目にちょっと薬を塗るくらいでした。しかし、一年を通して薬を塗らない年はなかったように思います。」

「大学に入って一人暮らしをするようになり、悪くなりました。就職して2,3ヶ月してから顔にも出るようになり薬が手放せなくなりました。」

『今までにどういう治療をされましたか』

「四国の有名な病院や、水治療の明石の病院、オムバスや漢方薬、波動水もためしました。」

『治してあげるといっているところばかりですね。アトピーは治してもらう病気ではありません。自然に治る病気です。』

『四国の病院はステロイド、水治療・オムバスや波動水はステロイドを使わないし、ステロイドについてはどう考えているのですか』

「ステロイドは使いたくありません。出来たらやめたいのです。」

『どうしてですか、今の医学では効果のある薬はステロイドとプロトピック軟膏しかありません。』

「ステロイドを使っていると綺麗になりますが、止めると悪くなります。使わないでも良いように根本的に治したいのです。」

『根本的に治したいというなら、あなたはアトピーの原因は何と考えていますか』

「さあー、何でしょうか? 以前に行っていた病院ではアレルギーといわれました。体質でしょうか。」

『アレルギーなら簡単ですよ。アレルゲンになる物を取り除いたらよいですから。ダニを通さないシーツや、床をフローリングにすればよいし、卵が原因なら食べなければ良くなる。アレルギーが原因ならアトピーは既に克服されています。アトピーはアレルギーではありません。体質は漢方薬や、抗アレルギー剤では変わりません。体質は変わらなくてもアトピーは治ります。少なくともコントロール可能になります。』

「ストレスでしょうか」

『私はそう思っています。アトピーの原因はストレス、人間関係、不安などと考えています。』

「子供のアトピーもそうでしょうか」

『子供のアトピーは大きくなったら自然に治ると10年前まではいわれていました。私は今でもそう思っています。親離れがアトピーの改善に役立っていると思っています。』

『乳幼児のアトピーは母親の子育て不安です。除去食で良くなったように見えるのは、母親に育児の指針がきちんと伝わったから。母親がその方針で安心したからです。もっと大きな事実は淀キリで入院治療をされた成人アトピーの女性から入院以降に生まれた子供に酷いアトピーはいない事です。』

『ストレスは生きている限りある物です。ストレスの無い生活など考えられません。ストレスを無くそうなどといいません。ストレスをどうバネにして、生きがいに・遣り甲斐に変えていくかです。夢や希望を持てなければなりません。』

『人間は一人で生きていけません。人と人との係わり合いで生きていくわけですから、人間関係はどうしても避けられません。それを拒否することは出来ません。周りに媚びる必要はありませんが、きちんと言いたい事がいえないとしんどくなってきます。』

『私自身、生き方上手などととてもいえません。どちらかというと若いときから、言いたいことを言って生きてきましたから、ぶつかることも多くありました。』

『アトピーの方は先のことを不安で予想してしまいます。上手くいかなかったらどうしょうと考えてしまいます。上手くいくとは考えないのでしょうか』

『アトピーの悪化は体がだしている危険信号です。その危険信号の元になっているところに目を向けないで信号だけステロイドで消してしまって、無理を続けているとステロイドが効かなくなってくる。』

『これがステロイドを続けていると効かなくなってくる一面です。』

「ではアトピーを治すにはどうしたらよいのでしょうか」

『アトピーの原因がストレス・人間関係・不安であれば既に書いたようにストレスをバネにしたり、夢が見つけられたりすればよいわけですが、そう簡単にはいきません。アトピーの悪化は皮膚症状で体が頭に教えてくれていると考えてください。ストレス・人間関係・不安で体が参っているわけです。そう考えるとゆっくり休む、おいしい物を食べるということが必要ということが分かると思います。』

『アトピーが良くなるのは何時このことに気づくかです。』

『アトピーを治す薬はありません。淀キリにも特別な物はありません。ステロイドを使わなくても良くなるときはよくなる。ステロイドを使ってコントロールしていてもこのことに気をつけていればステロイドはいらなくなる。早寝早起き、バランスよく食べて、言いたい事がいえるようになると自然に良くなって来る。これが淀キリのアトピーの治療です。』

『“キリストは私の元に来なさい休ませてあげる。”といったそうです。淀川キリスト教病院に来なさい、ベットを提供します、ゆっくりと休ませてあげます。これも淀キリの治療です。』

『この間もステロイドを使って、その後リバウンドで顔が腫れたと来院された方がいました。リバウンドでもなんでもなく、アトピーは治ったままの状態でした。顔が腫れたのはカポジー水痘様発疹でした。これも体が疲れたときに出てくるのですが、抗ウイルス剤を飲めば1週間で治まってきます。溶連菌感染も同じでこういう感染症は薬がありますから、医者の診断力にかかってきます。しかし、アトピー性皮膚炎を根本的に治す薬や方法はありません。』

諏訪中央病院元院長の鎌田實先生は『頑張らない』の極意は頑張らないが、あきらめないと書きました。
アトピーの治療はこのとおりだと思います。彼も慢性疾患の治療は何時患者が気づくかだと書いています。治してもらう病気ではなく自分で気づいて治っていくこれがアトピー性皮膚炎の根本治療だと思っています。

Vol.66 診察風景2

その1(ステロイド依存)
美人で肌の綺麗な女性が診察を受けに来られた。
『どうされました?』

「ステロイドを止めたいのです」

『止めればいいですよ、副作用の萎縮も毛細血管拡張も何もありません。ステロイドを塗る必要も無い皮膚です。』

「いいえ、ステロイドを塗るのを1日でも止めると真っ赤になって仕事にいけません。」

『そんなことは無いでしょう。簡単に止められるはずです。』

「仕事を辞めましたから、入院してステロイドを止めさせて欲しい」といわれました。

仕事がストレスになっているだけなら、仕事を辞めるとステロイドは不要になる。入院する必要は無いと思いましたが、強い希望がありましたから、入院してステロイドを止めてもらいました。  

結果は、離脱皮膚炎が1週間ほど出ることが多いのですが、この方はそれも起こらず綺麗な状態のままでした。2週間病院に入院してもらいましたが何も起こりませんでした。結婚式を控えてステロイドを止めなければという気持ちがマイナスにもプラスにも働いたと思っています。

その2(ステロイドは2度と使いたくない例)  
外来が終わってホッとして診察室を出ると
「お久しぶりです。誰だかわかりますか?」と茶髪の青年が立っていました。

『名前を覚えるのは下手だが、あなたは覚えていますよ。苦労したもの。』

『今日はどうしたの?』

「入院から5年、体調も良くなったから台湾に行って仕事をしようと思っています。当分帰らないから挨拶に来ました。」

『それはありがとう。それにしても綺麗になったね。アトピーがあったと分からないくらいになっているね。』
 
入院中は体中から汁が出ることが多く、ベットから動けない時期も長くありました。私から『頼む、ステロイドを使ってコントロールしなおしてくれ』と頼んだこともありました。

「これまで、ステロイドが効かなくなって止めても、どうしようもなくなってステロイドを再使用する事を繰り返してきた。今回はきっぱりと止めたい。ステロイド再使用の話も出さないで欲しい」

『そんなに決意が固いなら、ステロイドの話はしない、頑張れ。しかし、他に良い方法は無いから治ると信じて食べられるときは食べること。感染症は医療者側が気をつける。』

しかし、8ヶ月位入院治療を続けたが好転の兆しはみえませんでした。父親が伊豆に温泉つきの別荘を持っており一緒に住めるということでしたから手紙、電話などで連絡を取るようにして転地療法に切り替えさせてもらった。

1年くらいはあまり良くない、少しましになったなどの連絡があったが、そのうち連絡が途絶えてしまった。風のうわさに良くなってサーファーとか、ドラマーになったと聞こえてきていました。  

「チャペルが見えてきたときにポロリと涙が出てきた。私は頑張ってステロイドを使わないで良くなったが、しんどかったのも間違いありません。他の人に自分の経験を押し付けることは出来ません」といって旅立っていきました。

その3(アトピーの方の考え方)  
「退院したら、あれもこれもしなければなりません。今まで休んでいた分をお返ししなければなりません。」

『それをやっちゃダメ。』

『頑張ったらだめ、ぼちぼちやらないと』

『骨折や胃がんの手術の後は、退院したらリハビリをするでしょう。アトピーも病気ですから退院したらリハビリをしなければ』

『入院している間は100%自分の時間、退院したら自分の時間が0になって家族のためや仕事のために精力を使ってしまう。それではダメです。』

『目標を設定して、その90%が出来ても「ダメな私」になってしまう。入院して何も出来なかったわけですから、2割でも3割でも出来たら大きな顔をしていたらよい。それが、リハビリです。』  

入院中にはめきめき綺麗になって、元気になる人も多い。しかし退院してすぐに悪くなってしまう人もいます。
アトピーの人の性格は白黒つけないと前に進めない人が多い。完璧に遣り上げないと納得できない人が多い。ぼちぼちやるとか、出来ることからやっていくとは考えない人が多い。周りの人達も
「完璧に治して来い。」「完全に良くなるまで入院させてもらえ。」と激励する人が多い。

アトピー性皮膚炎は皮膚の病気だけではなく考え方の病気です。ぼちぼちやろう、アトピーでも出来ることからやっていこう、治してもらう病気で無く自分で気づいて治っていくと考えられるようにならないと、良くなりません。

その4(子供の喘息が食物アレルギーが原因といわれアトピー性皮膚炎になった母親)  
30歳過ぎの女性。顔面が真っ赤に腫脹して浸出液も出ています。体幹はあちこちに紅斑・落屑がありました。
「入院させてください。」

『どうされたのですか?』

「元々は皮膚のトラブルは無かったのです。生まれた子供が喘息で半年前に入院したことがあります。そのときに血液検査をして卵と牛乳のアレルギーだから、母乳を続けるなら、お母さんも卵と牛乳を止めなさいといわれました。」

「1ヶ月前から顔が赤くなって痒くなり、1週間前から顔から汁が出るようになりました。」

『長く使っていたステロイドを急に止めたら、酷くなります。』

「私は薬を何も塗っていません。」

『えっ、何も塗っていない。本当ですか。どう診てもリバウンド症状のように見えます。』

「牛肉も鶏肉を止めなさいといわれ何を食べたらよいのか、だんだん食べる物がなくなって」

「どうしてよいかわからなくなって、そうこうするうちにこんなになりました。」

『子供さんが入院したときの喘息は卵や、牛乳が本当に原因だったのですか?』

「いいえ、風邪をこじらせたのが原因といわれました。」

『そしたら、卵や、牛乳をお母さんが止める必要はありません。食べてください。血液検査が陽性で食べてもなんとも無い人は多くいます。ましてやお母さんが食べて、母乳を介して喘息が出る例はほとんどありません。』

『卵アレルギーの酷い子供で、お母さんが卵を食べて、授乳すると、授乳中または直後より蕁麻疹が出る例を今まで2組の例を経験しているだけです。』

『入院してもらっても構いませんが、子供さんはどうするのですか。』

『食べる物で精神的に追い詰められているだけですから、食べられる、何を食べても大丈夫というように安全が確認されたら良くなってきます。』

『今日は牛肉を食べてください。そして明日また来てください。』

次の日には少し明るい顔で来院された。このようにして食べる物を増やしていくと1週間くらいで見違えるくらいに良くなってしまった。 

Vol.67 恨みツラミで物事は好転しない (2005.11)

何時から症状があるかと病歴を聞いていますと
『中学生の頃から顔面に発疹が出て、ステロイドを塗らされて・・・・』
『ステロイドを飲まされて』
という言い回しをされる方がいます。

ステロイドを出した皮膚科医をすごく恨んでいるように聞こえます。顔に症状が出て人前に出られなくなったから何とかして欲しい、腫れ上がってどうにもならないといえば、今の医学で効果のあるのはステロイドしかありません。

何とかするとなればステロイドしかないのが現状です。それを10年たっても恨んでいるほど恨みぶかいことなら裁判でも起こせばよいことです。
裁判までしなくても直接恨みをぶつければ良いことです。
そうしないで恨みを腹に残してしまうとアトピーは良くなりません。私はそう思っています。
 
軽いかさかさ状態や、発赤くらいでステロイドが必要ではありませんが、そういう状況でもステロイドを出す医者もいます。
これは医者の質の問題です。

ヘルペスと診断しながらステロイドを出すのは大問題です。
しかしこれらは今問題になっている
『アトピーにステロイドは使わないほうが良い』
とは別次元の問題です。
 
病院には礼拝形式の朝礼があります。
時間の許す限り最近は出るようにしています。
その中で初代ホスピス長・現病院理事の柏木先生が
『謝罪、赦し、愛の業(わざ)』
と題して、赦すということは簡単ではない、と
聖書のエフェソの信徒への手紙 4:32『互いに親切にし、憐れみの心で接し、神がキリストによってあなたがたを赦してくださったように、赦し合いなさい。』
という箇所を引用して赦しの大変さ、大事さをお話されていました。
そのお話を聞きながらに『赦す』の反対語は恨むではないかと感じました。

私には恨みの感情は余りありません。無いといっても良いほどです。もちろん腹が立つこともたくさんありますし、怒ることも多々あります。

どうも私は腹が立ったり、気分を害したらすぐに表現してしまうようです。言わなくて良いことまで言ってしまうようです。だから恨みという感情を残さないようです。

恨んでいるより裁判でも、と書いたように研修医の頃、研修条件が悪いと人事院に仲間と提訴したことがあります。何でもかんでも強いステロイドを使う教授に教育的観点からも
「症状をすぐに消す必要がない場合、それは止めてください」
と直談判したのは医者になって6年目のときです。

自分が正しいと思ったら、相手が誰であろうと意見を言ってきました。ぐちゃぐちゃ愚痴をこぼすタイプではありません。

恨みはどう考えても前向きではありません。恨んでいるだけでは何も解決がつきません。恨みツラミで物事は好転しません。

キリスト教では「赦す」ですが、日本語には『水に流す』という言葉があります。ステロイドを使われたと何時までも恨んでいるのではなく、そのことは水に流してアトピーを治すためにセルフコントロールを始めましょう。

前向きに生きていきましょう。アトピー性皮膚炎の原因はステロイドしか考えられない例もありますが、ほとんどの場合はステロイドを使われたからではありません。

Vol.68 悪徳リフォームと密室医療

高齢者や認知症の方を騙す悪徳リフォームは酷い人達・許せないと思っていたのですがその何倍も上を行く被害が確実な耐震強度偽装問題が出てきました。
悪徳リフォームでは可笑しいなと感じることは出来ると思いますが、後者では安い物件だと思うくらいで見分けがつきません。重大な犯罪だと思います。

医療の現場で同じようなことが起こっていないかと考えた場合、気になることがあります。

診察室は密室だということです。

密室での話。
蕁麻疹は一過性の限局性浮腫が定義です。一過性とは正常に戻るということです。多くの場合は一つ一つの発疹は遅くとも24時間以内に消えて正常に戻ります。

限局性浮腫とは全体でない、限局した範囲に浮腫:皮膚から盛り上がった状態になります。それを繰り返す疾患です。だから外来に来たときは消えてしまって症状の無いことも多いです。

そのために診断をつけるときに、皮膚症状が何時から出ていて、完全に消えてしまうのか、薄くなるが消えてしまわないのかなどがポイントになります。
だから、しっかり聞くのですが、「分かりません」と言って答えてくれなくなることがあります。

医者にいろいろ聞かれて緊張してしまって頭が真っ白になることがあるようです。私の診察ですらそうですから、医療の現場でこういう風に追い込むのは簡単といえます。

小児アレルギー学会が食物アレルギーの診断の手引きを作りました。少し遅れて「厚生労働科学研究班による食物アレルギーの診療手引き2005」が発表されました。

この2つの指針・手引きは食物アレルギーとアトピー性皮膚炎をきちんと分けて作られている点、除去食を基本にしないで、食べられるかどうかを試しながら、食べられる物を増やしているという点に重要な点があります。

血液検査が陽性だけで除去をしてはいけない。妊娠後期や授乳期に除去をしても子供のアトピーの発生には差が無かったなど、以前から知られていたことですが、小児科側からはっきりこういう形で発表されたことは重要なことだと思います。

アトピー性皮膚炎の患者はアレルギーをたくさん合併するという点と、アトピー性皮膚炎の原因は食物アレルギーという間違いが、やっと整理されてきています。しかし、今までの厳格除去食や回転食はなんだったという反省が必要だと思います。

まだ、蕁麻疹を繰り返すとアトピーになるという小児科医もいます。薬を飲むと蕁麻疹が出る人に薬を飲まし続けると蕁麻疹が出なくなります。しかし、ちょっと期間をあけて飲むと蕁麻疹が出ます。そして蕁麻疹は何度繰り返しても蕁麻疹です。

「私を信じてついてきてくれる人は治る」といった除去食派の小児科医もいます。子供のアトピーは大きくなれば自然に治る。騙そうとしているわけでない点だけが救いです。

ステロイドを使いたくない患者にステロイドを使わない医者のメーリングリストを作っています。その中での話し。

アトピーを治さねばならない、私の力でアトピーを治すと発言する医者が多い。「そんなことを言うのは臨床を知らない大学教授くらいや」と発言しても無視される。

医者は治す人、患者は治してもらう人の関係と思っている医者が多いようです。感染症やショック、重症の薬疹など医者の判断と適切な処置が重要な結果を及ぼすことがあります。それとアトピーの治療を一緒にしています。

ステロイドを使わないということは、どういう意図でステロイドを使わない決意をしたのかにかかわらず、ステロイド以外にアトピーの症状を押さえられる薬はありませんから、自然治癒を促すということです。
自然治癒力を高めるには何をすべきかが問題です。抗アレルギー剤や漢方薬、亜鉛華軟膏やモクタールなどはステロイドのほとんど入っていない外用剤と比べても問題にならないほど効果は弱い物です。

しかし、それを使って納得すれば、安心すれば症状が良くなることがあります。それを効果があったと勘違いしているようです。そして自分が治したと勘違いしているようです。

信じる者は救われる。メーリングリストのメンバーですらこうですから、ステロイドを使って「俺が治してやる、俺の言うとおりすれば良くなる。治らないのは薬の使いかたが悪いから」という考えが四国の有名な先生や大学の先生にとっては一般的な考え方なのでしょう。

悪徳リフォームとは少し違うかもしれません。しかし、悪徳リフォームはおかしいと思った人が追求したから発覚したのであって、少し金がかかったが、安心して住める家になったと感じてくれていたら、良いことをしたことになって感謝されていたかもしれません。

Vol.69 恨みツラミで物事は好転しない2 

2005年10月に同じタイトルで書きました。スポーツの分野でよく似たことを書いている文章を見つけましたから紹介したいと思います。2006年2月2日づけの「赤旗」にスポーツジャーナリストの永井洋一氏が「激しく叱るのが指導?」というタイトルである力士のことを引用しています。その部分を引用します。

彼は激しい兄弟子のしごきに耐えながら「いつか強くなって見返してやる」と強く念じていたそうです。ところが実際に実力をつけ、昇進して兄弟子を「見返す」ことができた後、自分を高めていくための、モチベーションを失って途方に暮れたといいます。彼には当時、さらに目指すべき上の地位があり、そこまで上り詰めていくために、何をもって自分を駆り立てていこうか、困ったというのです。下積み時代の自分のように、「見返す」というネガティブな感情をモチベーションにしているうちは、本当に自分を限界まで高めていくことは出来ないと、彼は語っていました。

80年代の後半にステロイド軟膏の副作用の裁判を起こして「顔つぶれても輝いて」という本を書かれた方と、92年に関西アトピーネットワーク主催の講演会で一緒になったことがあります。一見してアトピー性皮膚炎と診断できました。

当時も医者不信、ステロイド不信がすごく強いように感じました。裁判をやりぬくエネルギーにはそれが必要だったかも知れませんが、アトピー性皮膚炎が治るためには、そういうネガティブな怨念のような感情はマイナスにしか働かないと思いました。前回に書いた「赦し」や「水に流す」ことが必要と思います。

私はアトピー性皮膚炎の原因はストレス、人間関係、不安と考えています。アトピー患者はアレルギーを沢山合併しています。しかし、アトピー性皮膚炎の発症、増悪にはアレルギーは関係なく、ストレス・不安が原因になって、生活習慣が乱れてくることによると考えています。

そしてアトピーの悪化は体が危険信号を出した結果と考えています。そのためステロイドだけを使って危険信号を消して、今までと同じ事を繰り返しているとステロイドが効かなくなって、止められなくなると考えています。

ストレスは無くなる物ではありません。生きていく限りついて回る物です。ストレスをバネにして遣り甲斐をみつけることです。生きがいがみつかり、充実感、達成感を感じることが出来れば忙しくても悪くなりません。「あなたがいてくれてよかった」「助かったわ」といわれると生活に安心感や余裕が出来ます。

不安は誰でもあるものです。部署が変わってやっていけるだろうか、入学試験に落ちたらどうしよう、アトピーは何時まで続くのかなど、心配しても仕方の無い心配をしている方を多くみます。新しい部署で心機一転頑張ろうとか、合格してこんな勉強をしたい、アトピーを治すために遣れることからやろうと考えることが必要です。

特別ご寄稿文 ストレスと皮膚症状

先日(2006年2月19日)に第8回アトピー性皮膚炎にステロイドを使わない治療を考える会がありました。昨年までは医療従事者に限っていましたが、今年から患者さんや一般人の参加を呼びかけるようになりました。

テーマは「精神的ストレスと化学物質の皮膚への複合影響について」と大阪府立公衆衛生研究所の中野ユミ子先生にお願いしました。私は座長をしながら大層エキサイティングする内容に、臨床で起こっていることと重ね合わせて興味深く聞きました。内容を紹介したいと思います。
まず、先生の書かれた抄録です。

近年、アトピー性皮膚炎を含む種々のアレルギー疾患が増加し、社会問題となっている。原因として、精神ストレスや環境有害化学物質の増加が考えられる。
そこで、精神ストレスや環境有害化学物質をマウスに慢性的に与え、種々のモデルマウスを作成し、皮膚での炎症や遺伝子発現を経時的観察した。

その結果、これらのストレスが神経原性炎症や前炎症性サイトカインの発現を誘導し、アトピー性皮膚炎の発症や増悪に複合的に関わっている可能性が示唆されたので紹介したい。また、種々の職業集団の免疫機能測定から、ストレスを含む悪いライフスタイルの改善が、健康回復に効果的であることを紹介したい。

先生は京大理学部を卒業され、京大で理学博士号を取得された理学博士で臨床家ではありません。しかし、抄録でお分かりのように並の皮膚科医よりストレスとアトピー性皮膚炎の関係を見抜かれているように感じました。

まず始めに神経原性炎症としてストレスになる化学物質が神経軸索反射(脊髄を介する反射です)を起こして、サブスタンスP(肥満細胞に働いて炎症を起こす、神経末端から分泌される)が分泌され炎症が起こる。このように神経は皮膚炎の発症に深いかかわりがあることがわかってきたと解説されました。

マウスを大きなゲージで一匹だけ飼い、しかも隠れる場所を少なくすると孤独ストレスに苛まれ、
?まず体重減少、
?血中コーチゾール(ステロイドのことです)が2日目に増加するが以降は元に戻るか低下する。一方サブスタンスPは2日目には低下するが、30日では逆に上昇する。
?表皮角化細胞の増殖抑制や角化の亢進がみられバリアー機能が低下する。
?ランゲルハンス細胞(免疫担当細胞)の抗原提示能や移動性の亢進により接触皮膚炎が増強される。
?E−cadherin(細胞を接着する)が減り、バリヤー機能の低下をきたす。
?コーチゾールレセプターが上昇する。
このことはストレスを受け続けると体重減少がおき、バリアー機能が減少し、皮膚炎が増強するといえます。

化学物質過敏症ではホルムアルデヒドやTNCB(感作物質)で感作実験をするとストレス群の方がアレルギーが起き易い。
ホルムアルデヒドではストレスが無いと余りアレルギーが起きない。オスよりメスのほうが反応が強く出る。
血中コーチゾールは上昇する。

このように化学物質過敏症でもストレスが重要な働きをしており、単にホルムアルデヒドにさらされただけでは反応がおきにくい結果となった。
また、血中コーチゾールが上がるのは上に述べたコーチゾールレセプターが増えることと重ね合わせて考えるとストレスがかかるということはステロイド軟膏を塗ったと同じ効果があることが示唆される。

ストレス下にホルムアルデヒドやTNCBで反復塗布を繰り返すと皮膚反応が次第に増大して、ついにエタノールなどの関係ない物質でも反応するようになる。
これは神経原性炎症が進行し、皮膚は記憶現象があるため、異なる物質でも間違って反応が起こるのではないかと話されました。私は常々そう思っています。

以前にステロイドを塗っていたところが何時までも治らない。昔悪かったところと同じところがまた赤くなった。・・・たとえば目の周りが赤くなるのは元々、花粉によるかぶれを繰り返していたのが、花粉ではなくて精神的な葛藤だけで同じ場所に出たり、あせもが出ていたところにドキとして冷や汗が出たりするとそこが赤くなったりすることが例として挙げられないでしょうか。

ステロイドを塗っていたから何時までも治らないのではなくて、湿疹を繰り返していたから治りにくいのだろうと思っています。「皮膚の記憶現象」以前からそう感じていましたから皮膚科の臨床では固定薬疹(同じ場所に繰り返します)の例を挙げて説明をしておきました。

きつい上司の下で仕事している人や、長時間労働をしている人、夜勤中心の仕事をしている人など悪いライフスタイルの人のPHA反応(免疫能を見る検査です)が低下しているが、定時に帰るようになったり、テニスを始めたりするとPHA反応が回復していることが示されました。

最後に皮膚免疫系の制御機構の検討中に見出された非特異的抑制因子NSFの話をされて臨床応用の夢を語られました。
盛りだくさんの内容でしたが、あっという間に2時間が過ぎてしまいました。

座長をしながらメモを取っていましたが、聞き間違いや、理解しがたかったこともあり先生のお話を全て網羅したわけでもありません。間違いや先生の意図と違った言葉足らずな部分があれば、その責任は全て私にあります。
            
 2006年2月22日      

Vol.70  夫婦喧嘩は傷の治りを遅くする  

                           
「ストレスと皮膚症状」はいかがでしたか。「ストレスが原因ならどうしょうも無い」ことでしょうか。そんなつもりでこの文章を書いたわけでは在りませんし、中野先生を講演にお呼びしたのではありません。  

「ストレスで傷の治癒力が低下」という紹介記事がメディカルトリビューン(2006年3月30日発行)に載りました。42組の夫婦に吸引法で傷をつけて24時間入院して傷の治るのを観察します。初回は前向きな、楽しい話をします。

2ヵ月後に同じように傷をこしらえますが入院前に夫婦喧嘩の口論を30分間してもらいます。その様子をビデオにとって夫婦仲を判定します。口論をしたときのほうが前向きな会話を交わしていたときに比べて傷の治りが1日遅れたようです。仲の悪い夫婦では2日も遅れることがあったようです。
Janice Kiecolt-Glaser et al:Archives of General Psychiatry(2005;62:1377-1384)  

この実験で注目すべきは夫婦喧嘩という軽度なストレスでも傷の治りを遅くするという事実です。阪神大震災などの大きなストレスは注目されますが、実際には日常良く遭遇する軽度なストレスで傷の治りを遅らすということです。  

いつも気にならないようなストレスにさらされ、不安で一杯、何時治るとばっかり考えて仕事が手につかないなどは皮膚に影響するのではないでしょうか。  
入院中に良くなってきた人が会社の同僚や上司のお見舞いの後に痒みが出たり、悪くなったりすることは良く経験します。家族がお見舞いに来ても同じように悪化する人もいます。励ましてくれるのが負担になっているのではないかと思っています。

このように一寸したことが皮膚に影響を与える経験は数多く在ります。  
「仕事が忙しく寝る時間が4〜6時間しかありません」といって来院された方がいました。当然アトピーが悪くなっていました。
「仕事を早めに切り上げて帰ったら良いでしょう」
「そんなこと出来ません」
「どうして出来ないの」
「????」
仕事を切り上げて帰るという発想がそもそも無かったようです。残業命令があっても、労働者の合意が無いと残業を強制できません。月60時間の残業をすると鬱になる確率が増えると新聞記事にありました。
月100時間以上の残業を続け、過労死すれば、労災認定されます。サービス残業の事実を労働基準局に持ち込めば、罰せられるのは会社側などと話しました。

一人で戦えといっているわけではありません。こういう考えもある、端から「寝る時間が4〜6時間しかありません」と決めてしまう必要は無いと話しました。もしアトピーをステロイドで押さえ込んで、さらに無理を続けると過労死や過労自殺などになりかねないと説明しました。  

「アトピーに理解を」と4月7日付の朝日新聞阪神版に会長も参加している?「アトピー的コレクション」の紹介記事がありました。
代表の高山さんは「病気を受け入れ、明るく前向きに社会で生きる」を活動の基本方針にしていると述べています。
そのとおりだと思います。

そしてそれが中野先生のお話でも触れられた長時間労働などで免疫力の落ちていた人が定時に帰るようになり改善した例や、テニスを始めて体を動かすようにすると免疫力が回復していることが示されたことと綱がってくるのです。
しかし、リクルートファッションに悩まされた大学生の例は、頷けません。
ネクタイで締めた白いワイシャツの襟は血で汚れる。
ふけが目立つため紺色のスーツを避けたい。
「辛いけど、これが社会の決まりごとになっているので我慢するしかない」といっています。

リクルートファッションが白いシャツに紺色のスーツで無ければならないでしょうか。
そんな社会の決まりはありません。勝手に思い込んでいるだけです。私は若いときから白いシャツは冠婚葬祭にしか着たことが在りません。リクルート活動をしたことはありませんが、私の息子は薄い蓬色のダブルのスーツで就職活動をしていました。
制服でストッキングをはかなければならない女性の話は、ストッキングをはくと痒くなるなら、ストッキングをはかなくても良いように会社と交渉すれば良いだけです。そのために診断書が必要なら何時でも書きます。こうゆうことが社会で明るく前向きに生きることに通じると思います。  

このように、勝手に思い込んでいることやストレスが原因でどうすることも出来ないのではなくて、発想が自由になり、ストレスや不安が原因だったと認められることができれば解決が可能になります。それならどうすると道が開けてくるものと信じています。

Vol.71 健康情報とサプリメント

最近TBS系の健康情報番組で紹介された白いんげん豆ダイエット法で嘔吐や下痢などの健康被害が続出して総務省がTBSに健康被害が拡大しないように周知徹底するように文書で要請したと言う記事がありました。
また、癌患者などに良く飲まれているアガリクスでも、キリンウェルフーズ(株)の製品では摂取目安量の約5倍から10倍程度の量を与えられたラットで、発がんを促進する作用が認められたそうです。
厚生労働省は、2006年2月13日に、この製品の販売会社に、製品の自主的な販売停止と回収を要請しました。

「がんが消えた」と偽の体験談を載せたバイブル商法でアガリクスを販売した出版社と健康食品会社が薬事法違反容疑で逮捕されたのも最近の出来事です。
このようにテレビや書籍で紹介された物の中にも怪しげな物が沢山あります。本当にその情報が正しいのか、意味を持つのかを検証してからにしたいと思います。

チェックをどうしたらよいかは

◆『がんの補完代替医療ガイドブック:民間療法とうまくつきあうために』(H18.4.5)
に記されています。参考にしてください。

それによると癌に効くという根拠になるデーターはなかったということです。

「足の裏の黒子が癌になり易い??」とテレビや雑誌、新聞に載ると心配した患者さんが数人外来に来られます。
全国では大変な数の人が皮膚科を訪れていると思います。この問題は、こう語った医師が悪性黒色腫(いわゆる黒子の癌)の専門家かどうか。

本当に足の裏の黒子が癌になり易いといったかどうかです。皮膚科学は分野が広いですから、皮膚科教授といえども悪性黒色腫の経験が少ない教授もいます。

足の裏の黒子は褐色くらいの薄い色も含めると日本人の10%の人が色素斑を持っています。それが全て癌になるなら大問題です。だから足の裏の黒子が癌になりやすいと言っていないはずです。聞き間違っている、読み間違っているだけです。

足の裏の悪性黒色腫は白人に比べて日本人に多いのは間違いありません。しかし、それは黒子から癌化するわけではありません。5mmの大きさがあればそれが将来癌になるか、ならない黒子のままかは診れば解ります。

アトピー性皮膚炎でも、まじめな医者でもビオチンや亜鉛がアトピーに効くといって処方している例があります。
確かにビオチン欠乏ねずみなどで皮膚炎を作れますし、未熟児で亜鉛の少ないミルクを飲んでいると肢端皮膚炎に代表される湿疹様変化が起こることがあり、私も20年位前に学会報告したことがあります。

しかし、普通に食事をしていてビオチンや亜鉛欠乏にはなりません。だからそれを補ったからアトピー性皮膚炎が軽快することはありません。変な食事制限をして、欠乏症になり、それを補って治ったというのであれば、火をつけておいて消火する(マッチ・ポンプ)です。普通に食事をしていてビオチンや亜鉛を補給して良くなったと感じているとしたら、それは治ると信じたからです。

アトピー性皮膚炎は少々間違った治療法であっても、信じ込んでこれで治ると思い込んだら治ってしまうことがある病気です。

これが、民間療法がなくならない理由です。

温泉はリラックスできますが、温泉に入ってアトピーが治るわけではありません。写経をして気分を落ち着かせるのは良いですが、写経をするとアトピーが治る、座禅を組むとアトピーが治るというとうそになります。水を変えてアトピーが治るほど大阪市水道局の水は悪くありません。シジュームやウーロン茶でアトピーが治ることはありません。

漢方薬が効いたという証拠はありませんし、食事制限は蕁麻疹には有効ですが、食物アレルギーでアトピー性皮膚炎の皮膚症状が発症したと納得させるデーターはありません。蕁麻疹を繰り返したらアトピーになるという小児科医の荒唐無稽さには笑ってしまうしかありません。

医者の力量とはこんな物です。テレビに出る医者のレベルを自分の目で検証してください。医学博士の称号は足の裏のご飯粒みたいな物と言われていました。「とらなくても良いが、とらないと気持ちが悪い」程度の物です。医者の力量を表すものではありません。本当に効果が実証されているのは少ないということを頭において健康情報やサプリメントは使用されたら良いと思います。

Vol.72 渋谷

渋谷を知っていますか。僕は知りません。
『女子高生たちのつけたこんな安物の合成香料が渋谷ハチ公前交差点を渡る人と人の間の空気に溶け、それが人いきれや排気ガスやサラリーマンのつけているムッとするような体臭消し香料の匂いなどと混じりあったとき、それは渋谷という街の匂いとなるらしい。
・・・・・・夕刻、人波の中でセンター街に向かってスクランブル交差点前に立つと天地左右あらゆる方向から欲望を駆り立てる無数の音と映像のシャワーが群れに降り注ぎ、視神経や三半規管を狂わせようとする。』

こう書いたのは同名の小説を書いた藤原新也氏(東京書籍)です。  
彼はその小説の中で4人の少女を登場させます。母と娘の葛藤を描いています。  

『アタシがいつも良くできた子でいることがママの成績。
・・・・学校から帰って成績表をママのところに持って行って、一番になっているとすぐにママはパパとかシンセキとかに電話するの。アタシはそんな時得意だった。  
だけど、中2の三学期のときに成績表をママのところに持って行ってママがそれを見てほめてくれてもいつものようにうれしいって感情が出てこなくなったの。っていうか、吐き気がするようになった。成績だけじゃなく普段ほめられるだけで吐き気がするようになったの。それでも一生懸命みんなから気に入られるように良い子してた。
そんな感じでずっと暮らしてたら、今度は酷いアトピーが出始めた。

『渋谷』の中にはアトピーという言葉は上に述べた箇所以外には出てきません。
しかし、この作者はどこの皮膚科医よりもアトピーのことがわかっているのではないかと思った。経歴を見る限り東京芸術大中退以外は心理学などの勉強をしたとは書かれていない。

進学校の競争意識からいじめにあって引きこもっていた子が心の中のわだかまりを全て作者に話してしまうと「学校に行きます」と言った少女や、不登校で集団から疎外された少女たちにスポットを当て写真を撮ることによって彼女たちの"いま"に承認を与えることで"自分の立つ位置を得た"少女たちは不登校を解消してしまう。  

不登校を治すために、話を聞いてもらったわけではないし、写真を撮ってもらったわけでもない。それでもそれと本当に向き合った時に、何かが変わったように感じた。  

僕のアトピー性皮膚炎の治療の基本は「早寝早起きして、バランスよく食べて、遣りたい事が遣れて、云いたいことがいえるようになる。」が当たり前になったときにステロイドを使っていても要らなくなるし、ステロイドを使わなくても良くなる、です。

昨日来た患者にこのことを話していると100%の人がそれでよくなりますかと聞いてきたので「これが出来たら、100%良くなる」「良くならないのは横道にそれるから」「アトピーの原因を他に見付けようとするから」「治してもらうつもりでいるから」と答えました。  

家に火をつけて義母と異母兄弟を焼き殺してしまった悲惨な事件がありました。医者にするためにスパルタ教育をしていた父。殴ったり、怒ったりして勉強がはかどるわけが無い。

反抗期がなかったのではないかと言う教育評論家もいたが、押さえつけられていたものが捻れて噴出した結果と思う。

医学部の同級生の子供にアトピーの人が多い。親が医者だけでストレスになる。親が医者になれと強制しなくても『渋谷』のようにアトピーになったりすることが多いように思っています。

Vol.73 心のアンバランスについて

2003年の4月号に「魂とこころ」で魂とこころの関係を書いてみました。相変わらず魂の解明はまだまだ進みませんが、こころは脳の機能に大きく左右される事がわかってきたようです。

文教大学教育学部助教授で小児科医でもある成田奈緒子氏の論文が「子供の早起きをすすめる会」のホームページに掲載されています。
http://www.hayaoki.jp/gakumon/gakumon.cfm

その中でよい脳を育てる鍵はセロトニンが握っているとしています。セロトニンは不安や恐怖感を押さえ穏やかな気分にしてくれるそうです。

だから鬱の時にセロトニン濃度が高くなる薬を使います。またセロトニンは脳内のあらゆる部分に存在して睡眠や食欲など人間が生活していくうえで基本となる働きをコントロールする大事な脳内伝達物質である。

そして、セロトニンを増やして良い脳を作るには『普通で楽しい生活』を『早寝早起きして、ご飯をおいしく食べて、みんなと楽しく遊んで、ぐっすり眠る』ことが重要であると書かれています。

マウスを通常のケージより広くて遊び場所のある楽しい環境のケージで離乳期ごろから90日間育てると、通常の環境で育ったマウスの脳に比べて蛋白質の量が増えているそうです。
『良い脳が』育っているということだそうです。

脳の発達、こころの発達に一番重要なことは「普通で楽しい生活」ということのようです。前号に書いた私のアトピー治療法と似ていると思いませんか。

「早寝早起きして、バランスよく食べて、言いたいことが言えて遣りたいことが出来たらアトピーは自然に良くなる。」

2年ほど前の朝日新聞の記事に2歳の子供が夜10時まで起きている率が50%と書かれていました。セロトニンが増えないかもしれません。食物アレルギーが不安で子育て不安に追いやられてお母さんのセロトニンも減ってきているかもしれません。これらが子供のアトピーが増えてくる一因になっているかも解りません。

時間軸で見たら忙しくなりすぎている現在のストレス社会。忙しすぎが鬱の発症の一因となっています。
中流意識が崩壊して格差社会と貧困層の増大。
インターネットなどによる情報量の増加とそれの未消化。
一方で科学的な装いで科学を否定するような心霊現象や超能力を垂れ流す低俗なマスコミ。

こういう中で生きがいや遣りがいを見出せないで漠然と不安が強くなるとセロトニンが減ってくるかもしれません。アトピーを増やしているかもしれません。

特別ご寄稿文 情報を整理するためにどういう視点が必要か

アトピー性皮膚炎の患者で入院治療を希望してくる人達をみていますと、情報に振り回されてどうしてよいかわからなくなってしまっている人を良く見かけます。

特徴的な点を上げてみますから、情報を吟味するときに参考にしてください。

1.アトピーは大きくなれば自然に治る。

これは言葉どおりです。
「ステロイドを使えば」とも「ステロイドを使わなければ」とも云っていません。
15年前まではほとんどの皮膚科医はそういっていました。私は今でもそう思っています。治りにくくなっているし、思春期以降発症例もあるのも事実ですがそれはストレスの増大のためです。ステロイドの性ではありません。

2.ステロイドを使わなかったらアトピーにならない。ステロイドを止めたらアトピーが治る。

ステロイド軟膏が使われる前からアトピー性皮膚炎はあります。もちろんステロイドを止めてアトピーが治るわけではありません。
アトピーは1のように自然に治りますからステロイドを止めたから治ったのではありません。

3.ステロイドを使っていたらアトピーは治らない

そんなことはありません。今でもステロイドを使って治ってしまった方が一番多いと思います。だからステロイドを使いましょうというガイドラインが堂々ととおっているわけです。
しかし、ステロイドにだけ頼っていたらアトピーは治らないでしょう。

4.外用したステロイドが皮下脂肪にヘドロのように溜まる

こういうことはありません。
酸化コレステロールと云った安保教授の作られた教科書でも、最終的には分解されて胆汁中や尿から排出されると記載されています。

元々外用ステロイド剤といえども、生体にある副腎皮質ホルモンに似せて作られています。
皮膚に貯留する期間が長くなるように(効果が長く続くように)手が加えられています。

そのため少し長く残りますが生体にある分解酵素で分解されて尿や、糞から排出されます。

ヘドロのように溜まるのはPCBやダイオキシンです。これらは人間が化学的に作った物ですから、自然界に分解酵素がありません。

食物連鎖で人間の体の中に入ってしまうと脂肪に解けますから皮下脂肪に蓄積されます。このことと混同しているようです。

5.浸出液は体の悪い物や溜まった物が出ているから、だすだけ出したほうが良い。

ステロイドは溜まりませんから出す必要はありません。
浸出液が長期間続くと血液中の蛋白質が少なくなり、電解質の異常をきたします。浸出液を分析した人はいないと思いますが、浸出液は体液で必要な物と思っています。

6.陽に当たってはいけない。汗をかいてはいけない。保湿剤は使ってはいけない。また、保湿剤をしっかり使いましょう。1日3回入浴しましょう。入浴はしないほうが良い。

アトピーの人は「こうしなさい、こうしたらいけない」とはっきり云われたほうが安心するみたいです。
ほどほどにというのがすごく下手です。

紫外線の効果は学会で認められたエビデンスがあります。
日本の夏に汗をかかないような環境を作るのは不可能です。
保湿は適当に過不足無く行なえばよい。ゴールは何も塗らない。入浴は皮膚を洗浄してリラックスするだけの物です。
入浴でアトピーが治るわけでは在りません。

7、漢方薬でアトピーが治る。

漢方薬にそれなりの薬理作用があります。薬理作用を否定しているわけでは在りませんが、保険に適応されるときに二重盲検法(処方する医師も、内服する患者も本物の薬か偽薬か知らないで服用し、効果判定する)で判定して認可された薬ではありません。
またアトピー性皮膚炎にも二重盲検で検討されていません。

8.サプリメント・健康食品

個人的に効果があったように感じる人はいると思いますが、効果が確実であったというものはありません。もちろん二重盲検で検討されていません。

成田奈緒子 書籍


Vol.74 占い・引きこもり・ニート・アトピー

新春おめでとうございます。
2006年4月に父が亡くなり年頭の挨拶を遠慮していました。

あとっぷも13回目の新年を迎えます。よく続いているなと感心しています。
山下君ご苦労様です。無理をしないで、しかし出来る限り、続けてもらえたらと思っています。

私は1月22日で59歳になります。いわゆる団塊世代です。淀キリの定年は60歳ですからあと15ヶ月です。世に言う2007年問題です。阪神大震災で家がペッシャンコになったために建て直してそのローンを抱えていますから、定年後は楽隠居というわけには行きません。1年かけてその後の身の振り方を考えたいと思います。

さて本題です。
立命館大学の安斎育郎教授は次のように言っています。
人は、事が上手くいかないと「何か」のせいにしたがる。占いはその「何か」を悪霊や六曜(大安、仏滅など)のせいにしたりする。

確かに、人生は能力や努力だけでなく、差別や格差などの社会的不条理や、事故や災害などの偶発的な出来事にも左右される。しかし、能力を磨いたり不条理を取り除くのは簡単ではないし、災害は運・不運の問題だーそう感じる人々は、自分で対処できる「何か」のせいにする。

悪霊ならおはらいで取り除けるし、日柄なら大安を選べばいい。占い師が見立てる不幸の原因を除去し、「これでよし!」と新規まき直しが出来る。

だが、それは原因を正面から見据えていないから、気休めにはなっても本質的な解決にはならない。やはり、安易に占いに走って霊感商法の深みにはまるようなことを避け、生き方を見据えることから逃げないことが大切だろう。
(しんぶん赤旗:2006年11月23日)

引きこもりやニートの自立支援運動のルポを書いた『親と離れて「ひと」となる』足立倫行著(日本放送出版教会)のなかで工藤定次氏は「不登校にしろ、引きこもりにしろ『原因探しは意味が無い』『それより今後のこと』」といっています。

川又 直氏は「早寝、早起き、農作業。ともかく朝早く起きて、一生懸命体を動かしていい汗をかく。一杯食べて、早く寝る。そういう生活を繰り返していると、基本的な体力がついてくる。少々の不安なら消えてしまう。」といっています。

東大の玄田有史助教授は「ニートは考えすぎちゃうまじめな人」と指摘し、『フリーターでもなく失業者でもなく』(幻冬舎文庫)のあとがきで『「開き直る、けどあきらめない」ニートであろうと、その一歩手前にいようと、ちゃんといいかげんに生きれば、なんとかなる』と結んでいます。

それぞれアトピーに言及したことではありませんが、示唆に富む発言と考え引用しました。アトピーの人は原因を知りたがります。どうしてこうなってしまったか理由を探します。ストレスや、人間関係や不安が原因といわれると困ります。

そんなことは無い、「何か」あるはずと考えます。埃やダニの吸入抗原アレルギー、卵や牛乳の食物アレルギー、水道の塩素や環境汚染、ステロイド軟膏など、これが原因といわれたら安心します。原因がはっきりしなくても漢方薬で治る、アルカリイオン水で治る、温泉で治る、ウーロン茶で治る、ステロイドを止めたら治る、といわれたほうが納得できます。『先生は、「俺が治したる。」といってくれないから少し不満』とはっきり言われたことがあります。

私も「原因探しは意味が無い」ことが多いし、『自分で対処できる「何か」のせいにする』と楽と思います。しかし、「生き方を見据えることから逃げないことが大切だろう」し、「今後のこと」がもっと重要と思う。そしてまず何をするかは「早寝、早起き、農作業。ともかく朝早く起きて、一生懸命体を動かしていい汗をかく。一杯食べて、早く寝る。」「ちゃんといい加減に生活できれば大丈夫」でよい。

これは前回の「心のバランス」で書いた成田奈緒子氏の『早寝早起きして、ご飯をおいしく食べて、みんなと楽しく遊んで、ぐっすり眠る』に通じます。

ステロイドを塗る、塗らないが問題ではありません。ステロイドを使わないで治ってしまえば一番良いでしょう。しかし使わなければ社会生活が出来ないなら使ってもかまいません。風呂に2回入るか、風呂に入らないほうが良いかなどは問題にすらならない。保湿をしたほうが良いか、保湿をしないほうが良いかそんなことはどうでも良いでしょう。好きなようにすれば良いと思います。

皮膚の病気は放っておいても大部分は自然に治ります。免疫が働いて自然に治ります。治らないのはあれこれ考えすぎて、要らぬ事をやり過ぎて治りにくくしているのです。アトピー性皮膚炎も「ちゃんといい加減に生活できれば」良くなって来ます。要はどう生きるか、生き方の問題と考えています。

Vol.75 医療は未来を開く (2007.02)

朝礼には朝の回診が早く終わったときに出席するようにしています。1月の朝礼で院外から来られた牧師さんがすばらしいお話をされていたので紹介したいと思います。

朝礼は聖書の一部を引用し、それを解釈して、自分の理解したところをお話しするという手順で行なわれます。引用箇所はヨハネによる福音書9章1節−3節でした。

「さて、イエスは通りすがりに、生まれつき目の見えない人を見かけられた。弟子たちがイエスに尋ねた。

『ラビ、この人が生まれつき目が見えないのは、だれが罪を犯したからですか。本人ですか。それとも、両親ですか。』

イエスはお答えになった。

『本人が罪を犯したからでも、両親が罪を犯したからでもない。神の業がこの人に現れるためである。』」

この箇所では、弟子たちは目が見えなくなった原因にばかり関心が行ってしまっていますが、イエスは原因にとらわれるのではなく、これから起こる奇跡、未来を見なさいと諭します。

そして聖書ではこの記載に続いて、イエスは目の見えない人に「遣わされた者」という意味の池に行って目を洗いなさいと言われ、そしてそのようにしたら、目が見えるようになったと記されています。

そして牧師さんは続けられた。医療は病気を取り除いて元の状態に戻したらそれで終わりかと語り掛けました。病気が治って元に戻るのではなくて、病気を克服してこれからどう生きていくか、未来をどう生きるかが大切であると話されました。私たちはそのために働かせてもらっているわけです。

アトピーの患者には
「また、悪くなったらどうしよう」
「ステロイドを使わなければならなくなったらどうしよう」
「試験に落ちたらどうしよう」
などと考える人が居ます。

悪くならないように、入院してアトピーが良くなったのなら、退院して入院中の生活習慣を仕事をしながらも生かしていく、続けていくかが分かれ道です。

ステロイドを使わなくても良いようにアトピーの再燃の兆しがあれば、一息つけばよいわけだし、そうならないように生活改善をすればよいことです。

試験に落ちたらどうしようではなくて、落ちないように勉強すればよい。未来をどう見るかです。

最近、「外食が続いて痒みが出てきた」「間食がやめられないのが、悪化原因」という人がいました。外食や間食が原因ではなく、外食をしなければならないのも間食が止められないのも、ストレスがあるからです。
何かに追われているからです。

その結果、外食や間食に結びつくのです。原因と結果を取り違えてはいけません。

原因なんか探さなくても良い。これは私がよく口にするせりふです。個々の原因探しをする必要はありませんが、大きな流れは押さえておくべきです。考え方さえ変われば全てOK、といっているわけではありません。

アトピーの原因はストレス、人間関係、不安と考えています。ストレスは、以前にも書きましたが、時間を軸にして考えると増え続けています。人間関係が希薄になったり、逆に密着しすぎたり、人と人との距離のとり方が下手な人が増えているように思います。上に上げたように、何にでも不安が先行する人も多いようです。

アトピーは医者がシャカリキに成っても治せません。自分でこのことに気がつけば、自然に治っていきます。

Vol.76 アトピー学校の卒業 (2007.04)

玉置先生,お変わりなくお忙しくされているのでしょうか。
私は去年の11月に玉置先生に「卒業」といわれてから,とても元気に過ごしています。顔もお腹もツルツルです。

それとうれしいお知らせがあります。「卒業」後まもなく妊娠しました。今は4ヶ月で,8月に出産予定です。
妊娠してからは,先生がおっしゃったように,以前よりも肌がしっとりします。皮脂量が増えた感じです。妊娠の経過は赤ちゃんも私も順調です。

主人も,両親も,主人の両親も,妊娠がわかった時に私が妊娠できるまで元気になったことをとても喜んでくれました。私も今は自分の健康にも自信が持てるようになり,お腹の赤ちゃんが愛しくて,早く生まれてほしいという気持ちです。

先生には長い間お世話になりました。この報告が少しでも恩返しになればと思います。
元患者 ○○

という手紙を頂きました。とてもうれしい便りです。しかしこれをアトピー性皮膚炎の患者さんに見てもらうと。
「わー,早くこんな手紙が書けたらなー」
と喜んでくれる人と
「こんなこといっていてもお産が済めばまた悪くなるかもしれないのに」
と懐疑的に見る方がいます。

彼女は子供の頃からアトピーがあり、社会人になって悪化、結婚前後から悪化,ステロイドは使いたくないと考えて2004年5月に当院を初診しています。

6月に1ヶ月間の入院治療を行ない良くなりましたが、残念ながら退院後に悪化してしまいました。8月から納得してもらってステロイドの内服治療を行ない、症状によりステロイドを上げ下げして、少し時間がかかりましたが2006年5月からはステロイド無し,プロトピック軟膏を少し併用するくらいになりました。

月に一度くらいの割で通院していましたが夏ごろからはほとんど良くなりプロトピックをほとんど使わなくなり,11月に「もう来なくていい、卒業」と言ったようです。

確かにまだ3ヶ月ですからこのまま出ないと保証するのは危険ですが、このまま綺麗になっていくという自信と喜びが紙面に溢れています。そしてそれが大事なことと思います。

アトピー性皮膚炎が何処まで綺麗になるかと言う点は医者によっても見解に差があるようです。私が脱ステロイド療法を提唱するまでは多くの皮膚科医は「アトピーは大きくなれば自然に治る」と当たり前のように言っていました。

治ると言うことは文字どおりアトピーに見えなくなると言うことです。脱ステロイド療法に理解を示してくれる大学教授も子供の頃は酷いアトピーで包帯でぐるぐる巻きになっていた,と話してくれたことがあります。しかし、今の彼にはアトピーのかけらもありません。

アトピーはどこまで治るか,淀川キリスト教病院のホームページのなかにも書いていますが「どこまで治るかは私が証拠や」と言ってくれた元入院患者もいます。

写真入の年賀状を頂いたり、「近くまで来たから」、「当分日本を離れるので」など元気な姿を見せてくれたり、知り合いの紹介の際について来てくれ、アトピーのかけらも無くなっている人を経験します。だから,私はアトピーは治ると思っています。

脱ステロイド療法を提唱した頃,学会や研究会で「なぜ治るの」、「ステロイドの副作用が取れてもアトピーが残るのでは」と質問を受けました。

「脱ステロイド療法ではステロイドの副作用が取れて生のアトピーが残るのではありません。治ってしまうのです。何故かはわからないが治ってしまう。それを調べられるのは大学でしょう。」と答えていました。この質疑応答には質問者にも治ってしまうという暗黙の了解があったように思います。

アトピー性皮膚炎の本質は変わらないのに,最近ではアトピー性皮膚炎は治らないから死ぬまでステロイドを塗りなさいという風潮が出てきています。

ステロイドを使わない医者でもアトピーはコントロールする病気と考えるから、治るといいきらない。アトピー情報を発信する患者団体や,支援団体が「アトピーは薬害、アトピーは治らない・コントロールするだけ」の偏狭な情報を流すなら、無い方がましです。

アトピー性皮膚炎の原因はストレス・人間関係・無用な不安と思っています。「子供の時にステロイドを塗ると成人アトピーになる」「ステロイドを使って止めるとリバウンドが来る。それは3年経っても,10年経ってもリバウンドが起こる」ということを吹きこまれると治ったように見えていても何かの拍子で痒くなると「アトピーの再燃、リバウンド」と不安を増強させます。

ステロイドをちょっとでも使ってしまえば本当に心休まる時は無いといえます。そしてそれを信じて不安でどうしょうも無くなっている人がいます。こんな根拠の無い不安な情報も無い方が良い。

Vol.76-2 アトピー性皮膚炎は皮膚の風邪

先日の「第9回アトピー性皮膚炎にステロイドを使わない治療を考える会」でのアトピー性皮膚炎は治りきるという私の発言に対する違和感を持っている参加者が多いという事を聞きました。

参加者の大部分は患者さんでしたから、「わたしは治ってないのにー?」という反応なのでしょうか。なぜそういう違和感を持たせたのか良くわかりません。

アトピー性皮膚炎は麻疹のように免疫が出来て一度治ってしまったら二度と罹らない病気ではありません。インフルエンザは毎年抗原が変化しますから免疫が出来ても二度と罹らないわけではなくて毎年感染する人もいます。

今年は治ったが来年またインフルエンザにかかるかもしれないから、治ってしまっていないとは誰も言いません。
しかし,アトピー性皮膚炎ではそう思うみたいです。何故でしょうか。アトピー性皮膚炎が良くなって治ってしまっても、三年後のリバウンドが起きることもあるよ、幼児期にステロイドを使って治ってしまっても,成人アトピーが出るかもしれないと不安を押し売りされるから、不安が常に付きまとうからではないでしょうか。

長く続いている人でも中学生、高校生、大学生のときは薬を塗らないでもなんとも無かったという人が多く居ます。その期間は治っていたといえるはずです。就職してアトピーになる人も居ます。

結婚して初めてアトピーになる人が居ます。管理職になって始めてアトピー性皮膚炎になることも在ります。小さいときにアトピーが無かった人は言葉どおり初めてなわけです。

しかし、小さいときにアトピーがあった場合、高校生、大学生のときはなんとも無かったらその期間は治っていたといってもいいはずですが、どうもそうとは考えないで潜在的アトピーとでも考えているのでしょうか。

一度治ってしまった人が、交通事故を起こしてアトピーが出てきた人がいます。もともとアトピーが無くても加害者になってアトピーを発症することもあります。その間を治ってしまっていたといえませんか。

アトピー性皮膚炎を火事や,内乱に比喩するから間違いが起こります。火事なら消さないと燃え尽きてしまう。内乱なら押さえないと乗っ取られてしまいます。そうではなくてアトピー性皮膚炎は体が出している危険信号,疲れた時にかかりやすくなる風邪みたいなものです。

インフルエンザは美味しい物を食べてゆっくり休めば良くなってきます。タミフルを飲めば一日程度早く解熱すると言われています。そのためインフルエンザとわかるとこぞってタミフルを飲みますが、それを飲んで飛び降りたり、車の前に飛び出したりと奇行が続きました。

話しが横道にそれますが医療評論家の水野肇氏が産経新聞正論で今回のタミフル問題はキノホルムとスモンの問題と類似点がある(2007年4月9日)と指摘しています。

スモン:何だったかはインターネットで調べてください。私が医者になる前の薬害です。 http://www.mi-net.org/yakugai/dacases/smon/smonmain.html

アトピーの原因はストレス,人間関係、無用な不安ですから、それがマイナスに働き続けていれば治らないで症状が続くことはありえます。全例が治りきるといったわけではありません。

しかし,早寝早起きして,バランス良く食べて,言いたい事が言えて,遣りたい事が遣れたら(科学的に正しいこと)それこそ全例が良くなると思っています。

皮膚病では乾癬や掌蹠膿疱症のように今の医学では完治は例外を除いて無理な疾患もあります。その場合はコントロールするのが目標になります。

溶連菌感染やカポジー水痘様発疹などは皮膚科専門医が診たら診断はすぐにつきます。溶連菌ならペニシリンを,カポジーならゾビラックス投与か何もしないでも治ります。治りの良し悪しは医者の診断力と薬の選択、言われたとおりに内服するかどうかです。コントロールや、様子を見る必要はありません。

アトピー性皮膚炎は医者の診断力はそれほど要りません。正しい情報を提供して患者本人や家族が治す気になることです。コントロールする皮膚病や、感染症とは違う対応が必要です。風邪との違いは、風邪は長くとも1、2週間ですがアトピー性皮膚炎は少し長く続くだけです。

間違った情報に手を出す,それを捜すだけで回り道になります。医者が治すのではありません。自分がそれらに気づくことです。

Vol.77 脱ステロイド療法再考(2007.07)

ゴールデンウイークに入る前に15年ほど前からの患者さんと一緒に食事をする機会がありました。
あとっぷが結成される前の患者さんということになります。

ひとりは今も私にかかっていてアトピーの皮膚症状は少し残っていますがステロイドは使用することは無く、主に水虫治療でかかっている方です。もう一人はプロトピックを使いながら淀キリに来られています。最後の一人は京都の病院でセレスタミンを半錠/日内服されている方です。

談話の途中で
「何故僕と飯が食いたくなった? 完全に良くならないでアトピーをまだ引きずっているのに、何故?」
と聞いてみました。

この会をセッティングしてくれた人は「初めて診察を受けたときに『僕はよう治さん』といわれた、それまではステロイドを1日10gほど塗っていたから、この先生にかけてみようと思った」といわれた。

「僕はそんなことをいわれたら多分こなくなっていたと思う。僕は『一緒に考えよう』といわれたから今も淀キリに来ている」。

今もセレスタミンを半錠/日内服されている方は「ステロイド外用剤漬けになっていたから『セレスタミンをください』といったら『そんなもの出せない』と怒られました。それが始まりです」

15年前は脱ステロイド療法を学会で報告後、患者が増え始めた頃です。まだまだ確立した治療法ではなく、試行錯誤しながら治療を考えていた時代です。この3人とは一緒に温泉にも行ったりして治療法を考えました。
仕事を長期休んで湯治治療や農作業に従事した患者さんも居ます。

ステロイドは悪魔の薬という立場のテレビ局の取材を受けたときに「僕は今、ステロイドを使っていないが、将来また使わねばならないときが来るかもしれないですから、ステロイドを使ってはいけないみたいな報道をされたら困ります。もっと節度のある報道を望みます」とインタビューに答えたひともいます。
このインタビューは当然カットされました。アトピー治療は医者のパターナリズムで解決がつかないことは当時から分かっていました。

今ではアトピー性皮膚炎は医者が釈迦利器になって治せるものではない。医者が治すのではなく、自分が気付いて生活習慣、食事などに気をつけて、言いたいことが言えるようになって、遣りたいことが遣れるようになったら良くなるといっています。医者が出来ることは正しい情報を提供することくらいと考えています。

僕のことを「玉置は言うことがころころ変わる」といって攻撃する人が居ます。しかし15年前からの患者さん達と話していて基本は少しも変わっていないと感じました。それに自信を深めました。15年前と今ではアトピーを取り巻く環境は大きく変わりました。そのために言うことが違って当たり前だと思います。脱ステロイド療法の経験も深まりました。治療の幅が広がりました、情報量も増えました。助言の幅が広くなって当たり前です。

逆に「ステロイドが効かないアトピー性皮膚炎はいない」「ステロイドを使えばアトピーは恐ろしい病気ではない」といい続けなければならないのは可愛そうです。20年前と変わっていないほうが可笑しいのです。病気の本質が見えてきたとき、治療法は進化するものです。

Vol.77-2 アトピー性皮膚炎の正しい理解に向けてーその1

アトピー性皮膚炎の皮膚症状はアレルギーにあらず

アトピー情報を発信している人と話したときに、情報が沢山ありすぎて何が正しいかわからないという趣旨のことを言われました。確かに情報はたくさんありますが、間違った情報や、ものを売らんがための情報が沢山ありすぎます。

何が正しいか見極めることが必要です。医者は科学的にものを見る事ができると信じていたのですが、そういう人ばかりではないことも分かりました。そのため、医者が発信している情報にも誤りが沢山あります。一寸連載で見てみたいと思います。

  • アトピー性皮膚炎とアレルギーの関係

食物アレルギーがアトピーの原因であるといわれます。ダニや埃がアトピーを悪化さすと信じている人も居ます。

アレルギーとは抗原という原因になる物に対してIgEという抗体や、感作リンパ球が見つけられることがまず必要です。これには血液検査や皮膚を使った検査法があります。

よく知られているRASTや皮内テスト、リンパ球刺激テストなどがこれに当たります。そして原因になった物から遠ざかるとよくなり、良くなってから再投与試験を行なうと同じ症状が再現される必要があります。止めてよくなったから止めた物が原因とはいえません。

除去食をして良くなった、ダニクリーンルームで生活して良くなったからそれが原因といえません。しかし、多くの報告はここまでで終わっています。再投与試験をしていません。

中に再投与試験をしています。皮膚症状が良くなって再投与試験をしたら皮膚が赤くなって蕁麻疹が出たとアレルギー学会で報告されたことがあります。

しかし、アトピー症状は出ていません。誤って食べさせたら次の日に赤くなったというお母さんもいます。ダニクリーンルームの生活は続けられませんから、元の生活に戻って悪化した、やはりダニが原因といわれています。これがアレルギーの証明になるでしょうか。決してなりません。
 
以前必要があってショックを起こすほどの蕁麻疹を5日間連続で起こしたことがありますが湿疹の反応にはなりませんでした。慢性蕁麻疹は蕁麻疹を繰り返しますが、湿疹にはなりません。

しかし、アトピー性皮膚炎の起こり方を説明しているのに、蕁麻疹の起こり方を説明して、アトピー性皮膚炎はこれに準ずるという家庭の医学本があります。また、アトピー性皮膚炎の原因に食物アレルギーを考えている小児科医で蕁麻疹を繰り返すとアトピーになると叫んだ医者が居ますが、どちらも事実では在りません。

蕁麻疹を連続して起こすと耐性といって消えてしまうことがあります。事実、先に述べた蕁麻疹を起こす薬を5日間連続して飲まして蕁麻疹を起こし続けると6日目には同じ薬を飲んでも蕁麻疹は出なくなりました。
 
アトピー性皮膚炎の原因はストレス、人間関係、不安と考えていますから、原因と考えている物を食べただけで不安が強くなり痒くなったりすることがあります。だから投与試験は、食べさせる患者も医師も何が入っているか知らないで食べさせないと本当のところは分かりません。

これを二重盲検法といいます。このやり方で行なった納得できる報告がまだありませんからアレルギーといえないと考えています。ダニクリーンルームのほうはアトピーの治療は新しい治療法を行なえば少し良くなることが在ります。

ダニを生活環境から0にすることは出来ません。しかし、ダニに対するIgE抗体が高値の人でもダニを減らさなくても治ってしまう人は沢山居ます。ダニクリーンルームは最近言われなくなりました。そんな特殊な環境を作り続けるのは無理ということでしょうか。

だからアトピー性皮膚炎とアレルギーの関係はアトピー性皮膚炎の患者は花粉症や、喘息、食物アレルギーの蕁麻疹・下痢、RAST陽性などアレルギーを沢山持っているというのが正しい認識ではないかと思います。

Vol.78 アトピー性皮膚炎の正しい理解に向けてーその2(2007.09)

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次の問題は漢方薬が効くかです。これをサプリメントと置き換えてもらってもいいし、抗アレルギー剤と変えてもらってもかまいません。

私はアトピー性皮膚炎に漢方薬なんか効かない、アトピー性皮膚炎の痒みに抗アレルギー剤は効かないと常々言っています。
これは漢方薬や抗アレルギー剤に全然薬理作用が無いといっているのではありません。抗アレルギー剤はアレルギーを基礎にした痒み、たとえば蕁麻疹の痒みには非常によく効きます。漢方薬でもゴレイサンのように利尿効果の高い薬や、小柴胡湯のように副作用を起こして死亡例が出たりしています。

個々の薬理作用があることを認めていますがアトピー性皮膚炎に効くかとなると効いたという根拠のある論文を知りません。

「アトピー性皮膚炎に漢方薬を使った、そうしたらアトピー性皮膚炎が良くなってきた、これは漢方薬が効いたから、だから漢方薬はアトピーに効くと証明できた。」
こういうことです。

図を見てください。二重盲検(前に説明しました)で抗アレルギー剤がアトピー性皮膚炎に止痒効果があったとしてイギリスの学術誌に掲載された論文です。
画像の説明

しかし、ここで重要なことはプラセボ(偽薬)でも抗アレルギー剤には少し劣りますが効いている点です。抗アレルギー剤はアレルギーを基礎にした痒みに効くと上で述べました。猫の毛にアレルギーがある人は猫を飼っている家に遊びに行くと痒くなります。

この痒みは抗アレルギー剤を内服していれば抑えられます。だからこれくらいの差があるのは当然です。この結果からはアトピー性皮膚炎ではプラセボでも十分効果があると読み取れます。アトピー性皮膚炎には暗示で効果があるといえます。

漢方薬が効いたという論拠にはこういう二重盲検はやられていません。高橋晄正氏の「漢方薬は危ない」によるとなぜか、厚生省が漢方薬を認可したときにもきちんと検査はされていないようです。抗アレルギー剤ですら上のようですから漢方薬が効くという根拠は本当に薄弱になってきます。

漢方薬ですらこんな状態ですから、サプリメントなどは何の評価もされていません。二重盲検は行なわれていません。

Vol.78-2 アレルギー学会に参加して(2007.09)

6月にアレルギー学会が横浜であり,参加しました。
「アレルギー疾患ガイドラインをどう使うか」
「アレルギー疾患の患者参画型診療」
というシンポジウムを聴きました。

前者はガイドラインを専門家でない医療関係者にどう広めていくかが中心になり,後者は患者教育を行い,患者団体や先輩患者の支援を得てガイドラインを広めていくかにしか聞こえませんでした。

10年前に同じ学会に参加したときの印象として「あとっぷ」に『特別講演は河合隼雄氏の「こころの処方箋」でした。

シンポジウムは「こころとアレルギー病」で考え方や気持の持ち方、ストレスをどう捉えるかなどアレルギーが抗原抗体反応や分子生物学から離れた分野との関わりが必要であるということを歌い上げたような学会だと感じました。

そして、ワークショップは患者と医療従事者のパートナーシップという共同作業であるというテーマが随所にあり、アレルギーの原因探し一辺倒ではありませんでした。』と書きました。

会頭(前東京医科歯科大皮膚科西岡 清教授)講演では阪大から北里大学助教授に就任されたころに経験した成人アトピーの臨床スライドを提示してステロイドの乱用・不適切な治療がこういった症状をきたしたと提示された。

会頭はプログラム抄録の中で「ガイドラインは標準型医療であり,さらに,テーラーメイドの医療の導入が期待される」としているのにシンポジウムにそれが生かされているとは思えませんでした。

元々西岡教授は皮膚臨床(33巻413−418,1991)で成人型アトピー性皮膚炎が増えて、原因の一つにステロイド軟膏の乱用を挙げています。私が西岡教授とは別に、成人アトピーの脱ステロイド療法を学会報告したのは1991年6月の近畿皮膚科集談話会です。

臨床をきちんと行なっておれば、おかしい現象が起こっていることには気が付くものです。アトピー性皮膚炎のガイドラインはアレルギー学会と日本皮膚科学会と二つの物があり、長短ありますが、私に言わせれば、80年代にまともな皮膚科医が行っていた事を文章化しただけと思っています。

それで上手くいかない症例が増えてきたから何かおかしいなと気が付いたわけです。だから、ガイドラインに縛られると80年代後半から90年代の初めに起こったことが形を変えておきてくると危惧しています。

10年前といえば日本皮膚科学会にシンポジウムで医師と患者関係を
?医師主導型(薬剤中心)
?教育の関係(病気の理解を助ける)
?共同作業の関係(治療の主体は患者:医者は援助者)と発表しました。

アトピー性皮膚炎など慢性疾患は?の立場が必要である、と「あとっぷ」に書きました。今年の学会では?までは行くが,?の段階に行かないでガイドラインという?に戻っているように感じました。

同じ思いは2年程前に「患者の視点−功と罪―」で書きました。

『最近厚生労働省医政局長・岩尾総一郎氏の講演を聞く機会がありました。医療供給体制改革の基本的視点のひとつとして「患者の視点の尊重」をあげておられた。セカンドオピニオンを含めて患者への治療方針や治療方法の選択肢の説明が適切に行なわれ、患者と医師との信頼関係の下、患者の選択を尊重した医療が供給されることなどが大事と述べておられた。』
『岩尾氏の言うように医療が患者の選択を尊重した医療が供給されることが必要ということになれば、アトピー性皮膚炎の治療はガイドラインに沿うよりもオーダーメードの治療が必要になるという事にならないでしょうか。』

Vol.79 アトピー性皮膚炎は治る。(2007.11)

―酒さ様皮膚炎と成人アトピー性皮膚炎の違いからー

成人アトピー性皮膚炎の脱ステロイド療法を発表して16年。
この治療法は淀川キリスト教病院には根就いたと考えていますが、世間ではまだまだ混乱しているようです。

混乱の原因の一つは明らかなステロイド軟膏の副作用である酒さ様皮膚炎と成人アトピー性皮膚炎を同一のものとして論議している点ではないでしょうか。

酒さ様皮膚炎はステロイドの副作用としてすでに教科書に記載されています。この疾患の治療はステロイド軟膏の中止であることは皮膚科医の中でははっきりしています。

私も今日の治療指針(1997年版)日野原重明・安部正和監修に酒さ様皮膚炎・口囲皮膚炎の項の執筆を依頼され書いたことがあります。

ステロイド外用を止める点では皮膚科医は一致しており、すっぱり止めるか、非ステロイド軟膏に変えていくか、ステロイドの内服を一時使って漸減無しにするか位の差でしかありません。

一方成人アトピーではステロイドの効かないアトピー性皮膚炎などは無いという自分の少ない経験だけをすべてに広げようとする考えと、ステロイドが諸悪の根源で止めたらよくなる、というこれまた偏狭な考え方が同じ土俵に上がることなく自分の成果を誇りあっている現実があります。

酒さ様皮膚炎はステロイドの副作用のため、ステロイドを止めたらよくなります。当たり前です。しかしアトピー性皮膚炎はステロイドをやめたらステロイドの副作用部分は良くなっても元々のアトピーが良くなるわけではありません。

それをさも,酒さ様皮膚炎と同じように止めたら治ってしまうと言うのは間違いです。脱ステロイド療法を学会や研究会で報告したときに「元々のアトピーはどうなるの?」「アトピーの治療はどうするの?」とよく質問されました。

「特別なことはしませんが、アトピー性皮膚炎も治ってしまいます。その機序はまだ良く分かりません。」と話していました。それが、どういうことだったかを考えてみたいと思います。

今、淀川キリスト教病院のアトピー性皮膚炎治療は「早寝早起き、バランスよく食べて言いたいことが言えてやりたいことが出来たら、良くなる」です。脱ステロイド療法開始時期から基本的な点は変わっていません。そしてこれがアトピーの治療に重要であったのだろうと思います。私にとって当たり前のことです。だから、15年前の私の目には特別なことをしていないのにアトピーも治ってしまうというふうに写ったのだと思います。

「早寝早起き、バランスよく食べる」は必要最低限のことと思っています。しかし、アトピー患者と話していると、時に、それがとてもしんどい、出来ないといわれます。これが当たり前のようにできないと良くなっていかないと思っています。

以前にも書きましたが、子供の早起きをすすめる会のホームページではセロトニンを増やして良い脳を作るには「早寝早起きして、ご飯をおいしく食べて、みんなと楽しく遊んで、ぐっすり眠る」事が重要と指摘しています。

引きこもりやニートの自立支援運動のルポを書いた『親と離れて「ひと」となる』足立倫行著(日本放送出版教会)のなかで、ニート・引きこもりを支援するNPOの川又 直氏は「早寝、早起き、農作業。ともかく朝早く起きて、一生懸命体を動かしていい汗をかく。一杯食べて、早く寝る。そういう生活を繰り返していると、基本的な体力がついてくる。少々の不安なら消えてしまう。」といっています。

このように、早寝・早起き、バランスよく食べるがいずれの話しの基本になっています。どちらもそれを強調しています。だから、アトピーが治るためにはそれが必要だと今では強調するようになりました。

淀川キリスト教病院の治療は、特別何もしないではなくて「早寝早起き、バランスよく食べて言いたいことが言えてやりたいことが出来たら、良くなる」といえるようになりました。
15年前に質問された「残ったアトピーはどうするの?」に対する答えです。

「言いたいことが言えてやりたいことが出来る」ためには正しい情報による必要があります。わがままや、独りよがりでは問題の解決にはなりません。ステロイドを一切使ってはいけないわけでもないし、逆に現時点ではステロイドほど効果のある薬はありません。

ステロイド以外の効く薬や治療法を探していることは遣りたいことをやっているわけではない、間違ったことをしているという自覚が欲しいと思っています。お茶や、水や、サプリメントで治るわけがない。オーリングや爪もみ、指回し健康法など根拠は無い。座禅や写経、太極拳、漢方薬、湯治、鍼治療なども基本が抜けていると良くならない。

Vol.80 淀川キリスト教病院と近畿中央病院 (2007.12)

アトピー・ステロイド情報センター15周年記念シンポジウム(2007年11月)で近畿中央病院の佐藤健二先生の講演をお聞きしました。

成人アトピー性皮膚炎増加原因の見解は私とは少し異なります。ステロイド外用剤の功罪についての考え方も少し異なります。脱ステロイド成功例でもアトピー性皮膚炎は残るとおっしゃいました。

しかし、じっくり待てば満足できる結果になるともおっしゃっています。紅斑が消えて大変満足と訴えられているアンケート結果も示されました。

このような例はアトピー性皮膚炎も治ってしまっているのではないかと思いました。そして講演の終わり頃に「脱ステロイド後安定期のアトピー治療」として「規則正しい生活」を強調して食事、睡眠、仕事、入浴などをあげ「精神的ストレスを避ける社会的工夫」をして「皮膚を健康にするには体全体を健康にする以外にはない。有酸素運動から筋トレへ」と運動を強調されました。

そして「湿疹に気を取られず、普通の生活を普通に行う」ことの重要さを指摘されました。
決して「モクタール軟膏が良い」「漢方薬が効く」「温泉が良い」「このサプリメントが効く」「砂糖が悪い」などとは言いませんでした。

脱保湿の徹底、水分摂取の制限以外はほとんど淀川キリスト教病院の治療方針と変わらないと感じました。淀川キリスト教病院の「脱ステロイド療法」は佐藤先生の「脱ステロイドと脱保湿」と「脱ステロイド後安定期のアトピー治療」を一緒に行なう治療と考えて違いが無いように思いました。

画像の説明

つい最近「13年かかったが、先生の言う『アトピーは治る』が実感できました。当たり前のことが大事だったのですね。」と告げにきてくれた人がいます。

半年前には「『早寝早起き、バランスよく食べる』事が難しい、困難です」といっていた方です。「『良くなった』という喜びの手紙」を見ていただいた時に「こんなこといってもお産がすめば悪くなるかもしれないのに」と悲観的な考えを述べていた方です(あとっぷ76号2007年5月)。

その時「治る」とはどういうことかと詰めて話をしました。それが影響したのかどうかは分かりませんが、うれしい出来事です。

淀川キリスト教病院で行なうアトピー性皮膚炎の治療「早寝早起きして、バランスよく食べて、言いたいことが言えるようになる」は完成の域に達してきていると思っています。

キリストは「私の元に来なさい、休ませてあげる」といったそうです。淀川キリスト教病院でのアトピー性皮膚炎の入院治療は「間食禁止、だされた物を食べる、夜10時消灯、布団に入る、朝は早く起きる」です。

いろんな情報に振り回されてにっちもさっちも行かなくなった患者さんを休ませてあげる治療です。医者が出来ることは正しい情報を発信して、こういう場所を提供することです。

アトピー性皮膚炎では「アトピー性皮膚炎を治す」支援組織や、患者団体があります。それぞれ良かれと思って様々な「アトピーに良いもの」「アトピーにいけないもの」情報を発信しています。しかし、それがアトピー患者を逆に追い詰めているように感じてなりません。情報に振り回されてがんじがらめになって、どうして良いか分から無くなってしまっている患者さんを診る機会が多くなってきました。

「早寝早起きして、バランスよく食べて、言いたいことが言えるようになる」とアトピー性皮膚炎は治る。

支援組織や患者団体のすべきことは、こういうことが出来る環境を作ることであるし、支援することであると考えています。

「アトピーにはこれが良い、これを飲めばよい。逆に、これはいけない」などの情報を流すだけでも悪化する人がいることを知るべきである。

Vol.81 良くなる人、良くならないで もがく人 (2008.02)

4,5年前に入院して良くなって東京で仕事をしていた人がもうだめと言いながら12月の中旬に外来を初診しました。しばらく仕事を休んで実家でゆっくりしますとステロイドを処方しました。

今日外来に来て
「正月から楽しいことが続き、楽しいことをしているとどんどん皮膚が綺麗になってきました。2月から職場復帰してよいという診断書を書いてください」
といわれました。

「生活が充実して、達成感があれば、アトピーは良くなると以前から言っているじゃないですか、やっとそれが実感できたようですね。喜んで診断書は書かせてもらいます。」
と書きました。

実際は12月には仕事を辞めるつもりで東京を引き払ってきていたそうです。
「もう一度東京でやってみます。」
といって帰られました。

1年半前に入院して良くなって来院されなくなっていた人が1年前に悪くなったから
「また、入院させてください」
といってきた方がいます。

「入院したらよくなりますが、家に帰って悪くなるのなら何にもなりません。アトピーが良くなるのは入院したときにやったように早寝早起きして、バランスよく食べればよくなります。しかしこれは必要最低限で自分の生活の中でこれが出来て、言いたいことがやれて、間違った根拠の無い情報に振り回されないようにしなければ、本当に良くなりません。」
「今度は通院で勉強してください。」
と週に2日の割で通院を始めてもらい4,5ヶ月かかって良くなりました。
その後仕事を始めたりで通院間隔が長くなり、10月初旬の来院を最後に通院されなくなりました。

10月の来院直後ころから偏頭痛と眩暈などで入院し、オーリングを診断手段に使う医者にかかってサプリメントを飲んでいたそうです。

睡眠薬、漢方薬を止めなさいといわれて眠れなくなり、痒くなって掻き毟って悪くなったから何とかして欲しいと来院されました。
わらにもすがりたい気持ちは分かりますが

「何故、淀川キリスト教病院で勉強したことをやらないの。オーリングなどを診療の場に持ち込むのはナンセンス。何の根拠も無い。こっくりさんと変わらない。そんな医者にかかるから悪い。食事をきちんとしていれば、サプリメントなんかは不要。金をかけるだけ勿体無い。」

自分で道を切り開くつもりは無い、誰かに治してもらうことばかり考えているからつけ込まれる。

病気の原因をストレス以外の何か他の物(黄砂や花粉、水道の塩素)、何かの不足の性(ビオチンや亜鉛欠乏)、季節の性と考えたい。さすがに先祖の霊とか悪霊とは考えないと思いますが働かされすぎや、不安、言いたいことが言えないなどの社会や自分の側に在るとは考えないようです。

悪霊の性ならお払いをしてもらえば良いし、ビオチン欠乏ならビオチンを飲めばよいと考えるようです。そのほうが
早寝早起きして、バランスよく食べて、言いたいことが言えるようになる」より簡単です。

「こんなにしんどいならステロイドを使うしか無いですかね?」
「まだそんなこといっているの、使いたかったら使ってもいいし、使ったから治らないわけではない。ステロイドを使うのに『清水の舞台から飛び降りる』ような覚悟は要らない。ステロイドを「一度使ったら止められなくなる」というサプリメントや水を商売にしている本当は治って欲しくないと思っている人の書き込みを信じているほうが問題です。情報の裏をきちんと読まないと」
と叱りました。


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