深谷元継先生の英語論文

⚫️共著者及び雑誌名
Fukaya M, Sato K, Sato M, Kimata H, Fujisawa S, Dozono H, Yoshizawa J, Minaguchi S
Drug, Healthcare and Patient Safety 2014; 6: 131-138

原文はこちらからダウンロードをしてください。
http://www.dovepress.com/articles.php?article_id=18757

論文 日本語訳

深谷元継 (鶴舞公園クリニック), 佐藤健二 (阪南中央病院皮膚科), 佐藤美津子 (佐藤小児科), 木俣肇 (木俣肇クリニック), 藤澤重樹 (藤澤皮膚科), 堂園晴彦 (堂園メディカルハウス), 吉澤潤 (吉澤皮膚科), 水口聡子 (こうのす共生病院皮膚科)

要旨

 アメリカ皮膚科学会(AAD)は2014年5月にアトピー性皮膚炎の外用療法に関する新しいガイドラインを発表しました。2006年にAAD会誌に掲載された総説において、ステロイド外用剤依存(TSA)やレッドバーニングスキン症候群(RBSS)は、ステロイド外用剤によって生じうる副作用として指摘されたにもかかわらず、新しいガイドラインではこの病態に関する言及がありません。このことは、この病態に関してまだ議論の余地があるということを示唆しています。そこで私たちはこの病態を実際に多く治療してきた経験に基づいて、TSAまたはRBSSの臨床像を記述しようと考えました。この病態に関する医学文献は乏しいので、本稿における記述はTSAまたはRBSSに関する理解を深め議論を進める上で役立つでしょう。

はじめに

 アトピー性皮膚炎患者におけるステロイド忌避の問題は皮膚科領域でときどき議論となりますが、ほとんどの皮膚科医はこれを患者の無知による単純な恐怖心の結果ととらえており、TSAやRBSSと関連付けることは少ないです。
 しかしながら、TSAやRBSSを治療した経験のある医者の中には、患者たちの少なくとも一部は、過去にTSAやRBSSを経験したかもしれず、そのためにステロイド忌避の態度を示すという考える者もいます。アメリカ皮膚科学会は2014年5月にアトピー性皮膚炎の外用療法に関する新しいガイドラインを発表しました。2006年にAAD誌に掲載された総説において、ステロイド外用剤依存(TSA)やレッドバーニングスキン症候群(RBSS)は、ステロイド外用剤によって生じうる副作用として指摘されたにもかかわらず[1]、新しいガイドラインではこの病態に関する言及がありません[2]。
 患者たちの要望の高まりに応じて、全国湿疹協会(NEA)はこの病態の実情を明らかにすべく調査を開始しました[3]。NEAの調査の課題はホームページ上にいくつかの疑問文の形で明示されているので、本稿の著者もまたこれらの疑問への回答という形でこの病態の記述を試みました。
 TSAやRBSSを問題視し防止しようとする観点からは、AADの新ガイドライン[2]には3つの問題があります。本稿の後半ではこの問題を取り上げます。

NEAの疑問とそれに対する回答

1 ステロイド依存とはどのように定義されるのか?

  まずはじめに、TSAは「ステロイド依存」と呼ばれるべきではありません。より正確には「副腎皮質ステロイド外用剤依存」と表現されるべきです。しかしな がら、皮膚科領域でステロイド外用剤といえば副腎皮質ステロイド外用剤のことを通常指すので、「副腎皮質ステロイド」を「ステロイド」と略すことは受け入 れられます。一方、「ステロイド」という語は外用と全身投与(たとえば内服や注射)双方の意味に用いられます。依存は外用剤において頻度が高く、また特徴 的に起きます。したがって「外用剤」という語は重要です。 ステロイド外用剤依存という語は1973年にオーストラリアのBurryが初めて用い ました[4]。彼は中止するとすぐに湿疹が再発してしまうためにステロイド外用剤なしにはいられなくなってしまう状態を依存と表現しました。このように Burryの指す依存は患者の行動に注目したものでした。KligmanとFroschは依存という語をより皮膚科学的・形態学的な意味合いで用いました [5]。彼らは治療前よりも中止後のほうが症状が悪化してしまうような状況を依存と呼び、アトピー性皮膚炎は依存を生じやすい典型的な疾患であると指摘し ました。KligmanとFroschの総説においては、依存が体の特定の部位にのみ起きるものなのか、全体表に拡がるものなのかは明らかではありません でした。Rapaport とLebwohl[6]、およびEnomoto[7]らはリバウンドは全身に拡がり得るものだということを示し、 Rapaport とLebwohlはこれをRBSSと名付けました。
 これらの理由およびリバウンド期間中の症状の特徴から、TSAは以下のように定義付けられます。
 TSAとは「ステロイド外用剤からの離脱後、治療前よりも重症で多彩な皮膚症状を呈してくるような状態をいう」です。

2 ステロイド依存の臨床症状はどのようなものか?

  TSAの臨床症状は離脱の前後に分けて既述した方がいいです。離脱前には、依存を起こした皮膚は通常、正常かステロイドでよくコントロールされていたよう に見えます。患者は何かが起きていると自覚することが多いです。例えば、ステロイド外用剤を使用し始めた頃よりも痒みが治まらないようになってきたり、湿 疹が抑えられなくなってきたりします。治療抵抗性で痒みの強い痒疹様の皮疹が生じて残存する患者もいます。皮膚科医はしばしば痒疹はアトピー性皮膚炎でみ られる慢性で治療抵抗性の皮疹だと説明しますが、実は依存のサインであることが多いです(図1a)。
  ステロイドを中止すると、治療抵抗性の湿疹が残っていた部位に紅斑が生じ、日々ゆっくりと拡大していきます。元々あった厚みを持った湿疹(上述のように痒 疹が混在している)は平坦化し、拡大する紅斑との境界は不明瞭となっていきます(図1b)。このリバウンドの皮疹はステロイド外用剤を塗ったことの無い部 位にも広がります。典型的なリバウンドの皮疹の広がり方は、顔から首、上肢、体幹、そして下肢へというものですが、ほかにも様々なパターンがあり ます。時には、リバウンドの皮疹は、ただ一本の指にあった湿疹から始まり、腕、体幹、顔、下肢そして全身へと広がることもあります。湿疹が存在した一本の指以外にはステロイドを塗ったことが無いにも関わらず、です。
 軽症のケースでは、リバウンドの皮疹は潮紅と紅斑(滲出性のことも非滲出性のこともある)という単純な要素から成ります。一方、より重症のケースでは、丘疹、膿疱、びらんなどを含む多彩な皮膚症状を呈します(図2)。後者では時に40度に達する高熱を伴います。
 リバウンド反応のピークもまた患者によって異なり、数日から2,3か月の幅があります。リバウンドの皮疹はゆっくりと時間とともに広がりつつ治まっていきます。高熱は一般的に数日で治まりますが、敗血症などの合併症の鑑別はおろそかにしてはなりません。
  赤く滲出性のリバウンド期に引き続いて、厚く落屑性の皮膚を伴う乾燥して痒い期間がおとずれます。この時期には患者は通常抑うつ的・悲観的となりますが、 それは症状もさることながら、医師がステロイド外用剤の再開を勧める以外に患者を診るすべを持たないという事実にもよります。しかしながら、患者の精神状 態とは裏腹に、皮膚はゆっくりと回復していきます。この時期には、皮膚は非常に敏感になり、あらゆる些細な刺激にも反応します(図3)。季節性の気候の変 動すら、この時期の敏感な皮膚には負担となり、しばしば一過性に悪化します。
 発汗過多や痒い蕁麻疹が時に生じますが、それは回復のサインです。依存に陥っていた皮膚は時とともに正常化し離脱後の過敏性の亢進も減弱します。前経過は数週から数年にわたります。
 完全な離脱の後、皮膚は本来の姿を取り戻し元々のアトピー性皮膚炎患者の皮疹となります。もしも離脱前の皮疹がアトピー性皮膚炎ではなく実はTSAによるものであった場合には、患者の皮膚は完全に正常化します。

3 依存の皮疹とはどのようなものなのか?湿疹とどう違うのか?

 TSAの皮疹は基本的に原疾患のそれに似ています。このことがほとんどの医者(とく皮膚科医)がTSAの存在に気が付かなかったり懐疑的であったりする一つの理由です。TSAの皮膚病変を原疾患のそれと区別することは一般 的に困難ですが、病変の広がりや分布は少し異なるかもしれません。アトピー性皮膚炎の古典的な皮疹は首・肘膝の屈側に好発しますが、TSAにおいては皮疹 の分布はそれらに留まりません。TSAまたはリバウンド現象が及ばない唯一の部位は手掌・足底です。リバウンドの皮疹は体の中央部から広がり四肢に至りま すが、しばしば手背と手掌、足の甲と足底の境界部で止まります(図4)。しかしながら重症例では部分的に侵されることもあります。
 依存に陥った皮膚は、離脱前には萎縮した外観を呈していることもあります(時には皮膚は紙のように薄く青白い)が、離脱後は、皮膚は一時的に非常に厚みを増します。依存した皮膚のもっとも直観的な表現は、「TSAの病変はアトピー性皮膚炎の皮疹と同じように見えるが、アトピー性皮膚炎と考えるにはどこかが異なっていておかしい」です。

4 依存は体のどの部位に起きるのか?

 依存は体のどの部分にも生じ得ます。顔面、脇、外陰部など特殊な部位での依存の医学報告は多くあります[8]。顔面は酒さが生じうる特別な部位であり、腋や外陰部の皮膚は薄いです。おそらくそれで依存はこれらの個所では気が付かれやすいです。他の部位では依存は潜行性に進み、ステロイドを中止するまで気が付きにくいです。
 体のどの部位で依存が生じうるのかの疑問とは別に、リバウンドの皮疹は原疾患の存在しなかった部位やステロイドをまったく使用したことが無い部位にまで拡がり得ます。理由は不明ですが足底や手掌は前述のように侵されにくいです。しかしながら、最初に依存が生じる場所が手掌や足底であることはあります。手湿疹(主婦湿疹)はその典型です。皮膚が薄いことは依存に陥る要因の一つであるので、老人性乾皮症の患者は強いステロイドを用いた後全身性の依存を生じやすいです。

5 どのような強さのステロイドや使用法がステロイド依存を起こすのか?

  確かなのは、ステロイド外用期間が長いほど、ステロイド剤が強いほど、依存は起きやすいということです。具体的なデータを得ることは非常に難しいです。な ぜなら患者たちは通常、外用したステロイドを記録していないからです。組織学的にはステロイド外用剤による皮膚の萎縮は6週間目には明らかになることが過 去に報告されています[9]。また著者の個人的な実験によれば2週間以内にステロイドで皮膚は萎縮します(図5)。したがって、ステロイド外用剤は2週間 以上連続して外用すべきでないと主張することは理にかなっています[10]。ステロイドを外用したのと同じくらいの期間休薬すれば、皮膚は回復しステロイ ド外用剤は再開できるかもしれません。しかしこのような間歇的外用法で依存が食い止められるという証拠はありません。

6 ステロイド依存はどのように治療されるのか?

 言うまでも無く、依存を生じた患者においてはステロイド外用剤を中止しなければなりません。しかしながら、皮膚科医の間で依存が認識されていないため、患者は皮膚科医にあまり助力を期待できません。患者はしばしば病変部の皮膚の異常を感じて自らステロイドを中止し、予期せぬ強いリバウンドに見舞われ、その時のみ患者は皮膚科医のもとを訪れます。皮膚科医は通常これをステロイドを急に中止したことによる原疾患のただの悪化と診断します。医師たちはまた、ステロイド外用剤は通常の使用法で視床下部―下垂体―副腎系を抑制することは決してないと強調して、強いステロイドの再使用を勧めます。TSAと視床下部―下垂体―副腎系とは何の関係もありません。
 医師の中には他の薬剤に置き換えることを勧める者もいます。そのような代替療法は、患者が依存状態にあるという認識のもと、離脱が最終的な目標に設定された上で、ステロイド外用剤が完全に中止される場合にはうまくいきます。しかし、状況が元の皮膚病のただの悪化と見做されるならば、ステロイド外用剤は通常継続され、結果として患者は離脱することが出来ません。
 逆説的ですが、リバウンド期のもっとも有効な薬剤はステロイドの全身投与です。依存はステロイド外用剤の皮膚への直接作用によって生じるようであり(おそらく表皮萎縮によるバリア破壊)、一方ステロイドの全身投与は炎症を内側の免疫系から抑えます。一時的なステロイド全身投与は実に効果的ですが、ほとんどの患者はこの方法を好みません。ほかにもリバウンドの皮疹によるダメージを軽減する経験的な方法はいくつかありますが、いずれも患者と医師が協力してステロイド外用剤離脱を最終目標として置いた場合にのみ有効です。
 ステロイド外用剤の急な中止と漸減または間歇的な離脱との差は小さいです。もしも患者が漸減法で中止出来るのなら、その患者は急に中止したとしても離脱に成功するでしょう。逆にステロイド外用剤を中止するとすぐにリバウンドを生じてしまうため、量を少なくしたりや強さを下げたりすることが出来ない患者もいます。そのような患者はより重度の依存であり、ステロイドを徐々にやめるよう助言しても意味がありません。そういった患者は急にステロイドを中止せざるを得ず、離脱中抑うつ的となることが多いです。そのような患者たちに対して医師が提供できるのは、メンタルサポートや合併症(敗血症など)の防止がせいぜいであり、時間が最善の薬です。

7 ステロイド依存症候群の患者はどのくらいいるのか?

 TSA患者がどのくらいいるのかの統計はありません。しかし2000年に日本で行われたある調査[11]が少し情報を与えてくれます。この研究はアトピー性皮膚炎患者を、6か月間ステロイド外用剤治療を行った前後の状態を比較したものです。コントロール不良患者の割合は成人で19%、小児で10%、乳児で7%でした。依存患者はコントロール不良群に含まれると考えられ、小児では成人よりも少なく乳児ではさらに少ないでしょう。ということは19-7=12%の患者が依存であり7%は他の要因(外用不足など)ということになります。12%という数字は100-12=88%を占めると考えられる非依存患者よりも少ないです。そのような患者たちにとっては、TSAの警鐘は意味がなくむしろ有害かもしれません。非依存患者がTSA を怖がるあまりステロイド外用剤の使用を控えれば、湿疹をコントロールする有効な選択肢を失うことになるでしょう。TSAに関する情報提供は患者の大多数である非依存患者を煽動するものだと批判する者もいます。この批判はまったく理由が無いとはいえず、したがってTSAに関する情報提供の際には常に、依存患者は非依存患者に比べてはるかに少ないのだと注意を加えたほうがいいです。その一方で、残りの88%の患者もまた依存に陥る可能性があることを見逃すべきではありません。

 *** TSAまたはRBSSを防ぐ見地からの、新しいAADのガイドラインにおける三つの問題点

1 プロアクティブ療法には隠された意味がある

 「近年、同じ個所に頻回に繰り返し再燃する患者に対して、プロアクティブ療法による維持が提唱されている。・・・これは、そのような個所に週一、二回規則的にステロイドの外用を続けるという方法で、再燃の頻度を抑え、保湿剤単独に移行してから最初の再燃までの時間を長くするというものである」[2]。

 いわゆるプロアクティブ療法が紹介されています。これらのプロアクティブ療法の研究[12]-[14]においては、患者の疾患は研究参加前に強いステロイドによってコントロールされました。うまくコントロールされた患者は週1-2回ステロイドを外用するグループ(プロアクティブ療法)と、悪化した時のみステロイドを外用するグループ(アクティブ療法)の二群に分けられ、前者の方が再燃までの期間が長く経済的負担も少なかったです[15]。
 しかしながら、プロアクティブ療法の研究には二つの隠された意味があります。(1)研究の対象となった患者は全員、最初に強いステロイド外用剤で良好にコ ントロールできた患者です。したがって最初の段階でコントロール不良と判定された患者が存在し、そのような患者は研究に含まれていません。(2)プロアク ティブ療法に従えば、患者は理論的に永久にステロイド外用剤から離脱できません。湿疹患者は、とくに乳児や小児では、しばしば自然治癒しますが、そのよう な自然治癒傾向はプロアクティブ療法では想定されていません。
 上記の研究においてコントロール不良であった患者の率は10%-20%であり、古 江らの研究11におけるコントロール不良群の率に非常に近いです。著者はプロアクティブ療法がステロイド外用剤の休薬期間を設ける投薬法だという意味にお いて、TSAやRBSSの患者を減らす可能性があることは認めます。しかしこの方法は最初にコントロール不良と判定されたTSAやRBSSを既に発症してし まっている患者たちの役に立つものではないという点は認識されなければなりません。

2 タキフィラキシーとTSAとは異なる問題である

 「同じ薬を繰り返し用いることで効果が減弱する現象であるタキフィラキシーの発現を問題視する臨床家もいるが、それが臨床的に大きな問題であることを示すデータは無い」[2]。

  タキフィラキシーとは、ある薬剤で繰り返し刺激すると効果が減弱する現象を指す医学用語です。Du Vivierは強力なステロイド外用剤を連続4日間外用したのちに血管収縮を測定する実験によって、ステロイド外用剤によるタキフィラキシーを報告しまし た[16]。この効果はそれに引き続く数日間、ステロイド外用剤を中止することによって改善しました。タキフィラキシーという語はTSAやRBSSを表現 するのに適切ではありません。なぜならタキフィラキシーはTSAやRBSSよりも早い(すなわち短期の)反応のことをいうからです。
 もしもガイ ドラインにおけるタキフィラキシーという語が、アドレナリンの血管壁に対する効果が頻回投与によって減弱するような、本来の意味においてのみ用いられてい るならば、上に引用した文章は正しいです。ステロイド外用剤によるタキフィラキシーは、臨床的に問題は少ないです。しかし、ガイドラインの著者らがこの用 語をTSAやRBSSを指して用いたならば、「臨床的に大きな問題であることを示すデータは無い」という文章は間違っています。これらの患者たちはもはや 皮膚科医の元を訪れないために医学文献は少ないですが、かなりの数の患者がいます。だからこそNEAは調査を開始したし、我々はこの論文を書いています。
  もしもガイドラインの著者らがガイドラインにおいてタキフィラキシーをTSAやRBSSと混同していたとしたら、皮肉なことにそれはほとんどの皮膚科医が ステロイド外用剤からの離脱中の患者を診たことがないという事実を示すものです。タキフィラキシーはステロイド外用剤を中止する前の状態として現れ、一方 TSAやRBSSはリバウンドや離脱後の様相という全経過を表現する語であるからです。

3 治療不足は必ずしも不適切とは言い切れない

 「ステロイド外用剤の慎重な使用は確かに重要だが、ステロイド忌避の結果としての治療不足の認識もまた重要である。・・・ステロイド外用剤のリスクは、適切な 用法と強さの選択を間違えず、不使用の期間をはさむようにすれば、出現は低い。したがって(実際に奏効するよりも)より強いステロイド外用剤が患者によっ ては考慮される。それはリスクよりも有益性のほうが高いからだ」[2]。

 ステロイ ド恐怖による治療不足がここでは議論されています。このようなステロイド恐怖の患者は実際に存在します。患者の中にはステロイド外用剤を使用さえしなけれ ば湿疹は治ると信じる者もいます。実際、アトピー性皮膚炎と言うのは自然治癒傾向をもった疾患であり、ステロイド外用剤はこの自然治癒過程を阻害している かもしれないので、間違っているとは言い切れません[17]。さらに、患者がステロイド外用剤依存に陥っている場合には、「治療不足」抜きには患者の回復 は有り得ません。
 数か月から数年と言った短期の外来診療における経過観察においては、ステロイド外用剤によって「治療不足」の患者を治療するこ とは効果的にみえます。そういう理由から、過去の多くの研究がステロイド外用剤は有用だと結論付けてきました。しかしながら、さらに長期的な観点からもス テロイド外用剤は有益なのでしょうか?数十年前に皮膚科医がステロイド外用剤を処方するようになってから、成人性アトピー性皮膚炎患者は増えているではあ りませんか?なぜアトピー性皮膚炎患者だけがステロイド外用剤の使用に不満を訴えたり不安を感じたりするのでしょうか?
 皮膚科医がこれらの疑問 に明確に答えることが出来ない以上、アトピー性皮膚炎患者には、医学的に十分な情報提供を受けた後に、彼ら自身で治療法を選択し決定する合理的な権利があ ります。ステロイド外用剤は、患者が依存に陥っていない場合に、少なくとも短期的には有用ということです。したがって「治療不足」への過剰な警告は患者の 治療法選択の権利を侵すものであり、そのような患者は疾患の治療に真剣に取り組んでいないのではないかという社会の誤解を招くものです。


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 図1 a(左上):離脱前の痒疹様皮疹をともなうステロイド外用剤依存の典型的外観。b(右上):強いステロイド外用剤の量を減らした直後。依存が重症なので漸減法で安全に離脱することができません。c(左下):完全にステロイドを中止した後、リバウンドの紅斑が拡大しています。d(右下):一年後の様子。リバウンドはほとんど鎮静し被刺激性の亢進がまだ残っています。

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図2 より重篤なステロイド依存の離脱経過(左から右に:離脱前、離脱後2週間、離脱後3ヶ月、離脱後13ヶ月)。

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図3 ステロイド外用剤離脱後の過敏性の亢進の例。バンドエイドを貼って剥がした部(黄色矢印)が、左写真では荒れており、一年後(右写真)ではほぼ正常になっています。

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 図4 リバウンドの皮疹にみられる典型的な手首付近の境界形成。左:リバウンドのピーク、中央:一か月後、右:2ヶ月後。

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 図5 健常成人(筆者)の前腕にデルモベート軟膏を一日2回二週間外用した前後の、抗PCNA
抗体を用いた免疫組織学的染色の結果。表皮は明らかに薄くなっておりPCNA陽性核(茶色)は減少しています。

文献
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